祝祭の舞台裏
王都は祭りの準備で活気に包まれていた。広場には色とりどりの布が張り巡らされ、屋台には焼きたてのパンや甘い菓子の香りが漂う。亜人も人間も入り混じり、子どもたちが走り回る姿は、これまでになかった光景だった。
そんな賑わいを遠目に眺めながら、湯治場で計画を練った“女子会メンバー”は、祭りの裏方として再び顔を揃えていた。王妃エリシア、王妃フローラ、公爵令嬢クラリス、東国の姫アサヒ、そしてブリューナとファエリア。舞台の控え室に集まった彼女たちの表情は、どこか楽しげで、陰謀めいた空気すら漂っている。
「よし、段取りは万全ね!」エリシアがぱんと手を叩く。「明日は祝祭。主役はもちろん国と民よ……でも、その影でちょっとした仕掛けも動かさないとね」
「仕掛け、というと……」フローラが笑みを含んで尋ねる。エリシアはにやりとし、手元の紙を広げた。そこには祝祭の進行予定と、舞台裏での動線が細かく記されている。
「レオンとエリスティアが自然に顔を合わせられるように、私たちで仕組むのよ。例えば、舞台の飾り付けの視察に二人を呼ぶとか。相談する名目があれば、気楽に会話できるでしょ?」
「強引ですけれど……楽しそうですわね」クラリスが苦笑する。年下らしい率直さをにじませながらも、瞳には興味が光っていた。
アサヒが腕を組み、冷静に頷く。「祭りの準備は政治的にも意味があります。亜人と人間が協力して一つの舞台を作る……象徴的な出来事です。その場にお二人が立ち会うのは、自然なことに見えるでしょう」
「おうよ!」ブリューナが豪快に笑う。「あたいらが作った舞台道具やら照明器具やら、説明するって名目で呼べばいい。武器じゃなくても、あたいらは政治の道具だって作れるんだ」
「ええ、その通り」ファエリアも頷く。「精霊灯の光や飾りの配置は、術式の調整が必要です。エリスティア殿なら興味を示すはず。そこに殿下も一緒なら……会話が自然に生まれます」
◇
計画はどんどん具体化していった。どのタイミングで二人を呼ぶか、誰が声をかけるか。エリシアは張り切りすぎて「乾杯の音頭をレオンにさせましょう!」と言い出し、フローラとクラリスに「それは流石に露骨ですわ」と笑いながら止められる一幕もあった。
「でも……いい雰囲気になると思うわ」クラリスが最後に言った。「祝祭は国と民のためのもの。でも、そこで芽吹く縁もまた、未来を支える力になるはずです」
「そうね」フローラが柔らかく頷いた。「国の行く末と、人としての幸せ。その二つを重ねられるなら、これほど素敵なことはないわ」
エリシアが杯を掲げるように拳を突き上げた。「じゃあ決まり!明日は祝祭、笑顔と縁結びの日よ!」
笑い声が控え室に広がった。祭りを前にして、彼女たちの胸は高鳴り、期待に満ちていた。大人の女子会が練り上げた作戦は、翌日の華やかな舞台で花を咲かせようとしていた。
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