湯上がりの作戦会議(後篇)
(※登場人物は成人後)
温泉を上がった一同は、浴衣姿で湯治場の広間に集まっていた。木の香り漂う座敷には膳が並べられ、香ばしい焼き魚や野菜の煮物、甘辛く味付けされた山菜のおひたしなどが所狭しと並んでいる。湯上がりの火照った頬を冷ますように、冷酒の徳利が次々と空になっていった。
「はぁ……風呂の後の一杯は最高ね!」エリシアが杯を掲げてご満悦の声を上げる。彼女の明るさに、場は自然と笑いに包まれた。
「エリシア様、控えめにと申し上げても無駄のようですわね」クラリスがため息をつきながらも、楽しげに盃を重ねる。フローラも杯を手に、穏やかな笑みを浮かべていた。
「でも、こうして皆で肩を並べて飲めるのは嬉しいわ。立場を超えて話せる機会なんて、そうそうありませんもの」
◇
やがて話題は、自然とあの二人へと戻っていった。エリシアが酒を口に含んでから、待ってましたとばかりに切り出す。
「さて。前にも言ったけど、レオンとエリスティア。やっぱりなんとかしなきゃ駄目よ。接点が少なすぎるし、レオンは控えすぎだもの」
「確かに」クラリスが頷く。「殿下は誠実なお方だけど、恋となると一歩が出せないように見えるわ」
フローラは盃を置き、真剣な眼差しで口を開いた。「無理に近づけるのは逆効果でしょう。けれど、自然に顔を合わせる場を作るのは有効ですわ」
「ふむ、なるほど。では具体的には?」アサヒが首を傾げる。彼女の声は穏やかだが、視線は鋭く、場を真剣な空気へと導いていった。
◇
「お茶会を開くのはどうかしら?」エリシアが早速提案する。「私が企画して、二人を招待すればいい。自然に会話ができる場になるでしょ?」
「強引すぎません?」クラリスが苦笑する。「でも、きっかけとしては悪くないと思います」
フローラは慎重に言葉を選ぶ。「招待するにしても、大人数ではなく、親しい仲間だけにすべきですわ。気楽に過ごせる空気が必要です」
「それなら、次に予定されている祝祭に合わせるのも手ですね」アサヒが指摘する。「行事の合間に小さな席を設ければ、自然な形で顔を合わせられます」
◇
そこへブリューナが豪快に笑いながら口を挟んだ。「だったらよ、あたいら職人衆も絡めばいい。あたいらが作るのは、武器だけじゃないからな、政治に使える道具の相談って名目なら、二人だって気負わずに話せるだろ」
「確かに、それなら理屈も立つわね」ファエリアが微笑む。「術式と器の調整を理由にすれば、いくらでも時間を作れる」
「うふふ、いいですね。それでいきましょう」クラリスが愉快そうに杯を傾ける。「強引に見えても、後押しがなければ進まないこともありますから」
◇
やがてエリシアが杯を掲げ、締めの言葉を放った。「決まりね!私たちで背中を押してやりましょう!」
「ええ、異存ありませんわ」フローラが上品に微笑む。クラリスもまた、静かに頷いた。「恋は本人たちのもの。でも、縁を結ぶのは周りの役目でもあるわ」
「東国の言葉にもあります。“縁は織られるもの”と」アサヒが盃を置き、真剣に言葉を添えた。「ならば、私たちが糸を結んであげるのも悪くないでしょう」
◇
笑い声と杯の音が響き渡る。大人の女子会は、おつまみと酒とともに夜更けまで続いた。湯上がりの広間に灯る明かりは柔らかく、まるでこれから結ばれるであろう縁を祝福するように揺れていた。
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