街路に映る未来
昼下がりの王都は穏やかだった。露店の軒先からは香辛料の匂いが漂い、行き交う人々の声は賑やかでありながら、不思議と心を落ち着かせる柔らかさを帯びていた。石畳の大通りを歩くのは、ジークとミナ、そしてリュシア、カイル、エリスティアの五人である。
ジークの両手には大きな包みが山のように積まれていた。鍋、布地、乾燥した薬草、そしてミナが「これも必要!」と次々に買い足した小道具。彼の逞しい腕がなければ、とても運べない量だった。
「ちょ、ちょっとジーク、重くない?」
「いや、大丈夫だ。俺の仕事だろ」
短く答える声は照れ隠しのようで、ミナは口元を押さえてくすりと笑った。そんな二人の姿に周囲の買い物客がちらりと視線を投げる。囁かれるのは「仲のいい夫婦みたいね」という微笑ましい言葉。聞こえていないふりをしながらも、ジークとミナは互いに目を合わせ、同じように頬を赤らめていた。
◇
少し後ろを歩くリュシアは、そんな二人を見つめていた。ミナの明るい笑顔、ジークの不器用な優しさ。それが重なり合って自然に一つの絵になっている。リュシアの胸に、ふと別の映像が浮かんだ。
――もし、私とカイルがあんなふうに並んで歩いたら……?
唐突に脳裏をよぎった想像に、リュシアは自分で自分を驚かせた。顔に熱が走り、慌てて視線を逸らす。隣にいるカイルに気づかれたくなかったのだ。
だが、カイルもまた同じ想像をしていた。ジークが荷物を持つ姿を見て、自分がリュシアのためにそれをしている場面を思い浮かべてしまったのである。共に買い物をし、帰り道でさりげなく手を貸す。そんな些細な未来像に、彼の頬も赤く染まる。
互いに言葉にはせず、ただ視線を逸らして歩調を合わせる。だが沈黙は決して気まずいものではなく、むしろ甘やかな緊張を孕んでいた。
◇
「ふふっ」
笑い声が割って入る。エリスティアだ。二人の顔色を見逃すはずもなく、からかうように肩をすくめる。
「いいわね、ああいうの。見てるとこっちまでくすぐったくなるわ」
「エリスティア……!」リュシアが小声で抗議するも、その声は耳まで真っ赤になっていて説得力を欠いていた。カイルは苦笑を浮かべながらも、同じように言葉を飲み込む。
エリスティアはそんな二人を横目に、少し遠い空を見上げて呟いた。
「私も、そろそろいい人を探さなきゃね」
冗談めかして言った言葉だったが、彼女の胸の奥には本音がわずかに混じっていた。自分の道をずっと一人で歩んできたという自覚。その強さと孤独を誰にも悟らせまいとしてきたが、こうして仲間の自然な親密さを目にすると、心の奥で小さな寂しさが顔を覗かせるのだった。
◇
陽は少し傾き、街路の影が長く伸びていく。買い物を終えたジークとミナが戻ってきたとき、リュシアとカイルはそっと距離を取って平静を装った。エリスティアは何も言わず、ただ口元に含み笑いを浮かべている。
「お待たせしました!」ミナが手を振る。その表情は太陽のように明るく、ジークは汗を拭いながらも満足げだった。
五人は再び並んで歩き出す。笑い合う声、行き交う人々の穏やかな視線。王都の空気には確かに、守るべき未来の形が息づいていた。
リュシアは横目でカイルを見た。けれど何も言わない。ただ胸の奥で小さな火が灯ったのを確かに感じていた。カイルも同じように、言葉にならない温もりを抱えていた。
そしてエリスティアは――仲間の笑顔に混じりながらも、自分だけの未来を探す旅路を思い描いていた。
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