トワイライトの街
王都ソレイユに戻った一行を迎えたのは、かつての喧騒とは少し違う活気だった。広場には露店が立ち並び、笑い声が響く。その中に混じって、獣人の商人が果物を売り、エルフの少女が編み物を並べ、ドワーフの鍛冶師が小さな刃物を磨いていた。
「……変わったな」
アルトが感慨深げに呟いた。王族として育った彼は、この街の変化を誰よりも敏感に感じ取っている。「かつては人と亜人の間に壁があった。けれど、いまはもう……」
「自然に溶け込んでるね」アマネが微笑んだ。彼女の目には、子どもたちが獣人の少年と一緒に駆け回る姿が映っていた。その光景は、彼女にとって“守りたい未来”そのものだった。
ジークは腕を組み、大声で笑った。「いいじゃねえか! 肉を焼く匂いに、獣人の声が混じってるのも悪くねえ!」
「あなたは食べ物ばかりね」リュシアが呆れたように言うが、その表情には柔らかい笑みが浮かんでいる。「でも……確かに、ここには温かさがあるわ」
エリスティアは少し離れた場所で、人々の様子を静かに観察していた。弓を背にしながら、ふと呟く。「世界樹の守り人も、きっとこの光景を喜んでくれる……」
カイルは人混みの中で、傷ついた子猫を抱きかかえる少年に目を留めた。獣人の女性が膝をつき、優しく治療を施している。「……ああ、こういうのを見ると、僕ももっと癒せる力が欲しくなるな」
その隣で、ミナが銃を胸に抱きながら小さく笑った。「みんなが支え合ってる……私の作ったものも、ここで役立てるようになったらいいな」
日が傾き、街の灯が一つ、また一つと灯される。夕暮れと共に浮かび上がる街並みは、人と亜人が共に暮らす“トワイライトの街”と呼ぶにふさわしい輝きを放っていた。
「ここを、守らなければ」
アルトが小さく呟く。彼の言葉に、仲間たちはそれぞれ頷いた。守るべき場所は、もう自分たちだけのものではない。この街に生きるすべての人々の未来を背負うのだ。
その時、遠くの空にかすかな黒い靄が広がるのをアマネは見た。風はまだ穏やかで、人々は気づかない。だが、胸の奥に小さな緊張が走る。
――平和は確かに根付いている。だが、その平和を狙う影もまた近づいていた。
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