試練の火床
鍛冶場の空気は、昨日よりもさらに重く張り詰めていた。夜明けと同時に炉が点火され、赤い炎が揺らめく。その前に立つミナの手は震えていたが、握った火ばさみは確かに熱を掴んでいた。
「深呼吸しろ、ミナ。火はお前の敵じゃない。友だ」
ブリューナの低い声が響く。ミナは頷き、吸い込んだ空気を胸いっぱいに満たす。緊張が少しずつ和らぎ、視界の先に炎の色が鮮やかに映りはじめた。
水晶に浮かぶ幻影――魔導銃アルキメイア。その姿を思い浮かべるたび、心臓が強く打ち、迷いが薄れていく。これを完成させるために、仲間たちと共に歩んできたのだ、と。
鉄の塊が炉から取り出され、槌の音が鳴り響く。ミナが槌を振り下ろすたび、音が胸に反響する。かつては見よう見まねで打っていた動作も、いまは確かなリズムを刻んでいた。額に汗が滲み、腕は震えたが、その一打一打に意志を込めた。
「よし、そこだ。力任せじゃない、鉄の声を聞け」
ブリューナの言葉に、ミナは耳を澄ませる。槌音が変わる瞬間、火花の色が微妙に揺れるのを捉えた。息を呑み、さらに集中する。彼女の瞳には、かつてなかった確信が宿っていた。
ファエリアが魔力刻印の準備を始めると、ミナは隣に立ち、自らの手で刻印の線を描いた。流路を誤れば全てが崩れる。指先が震え、視界が滲むほどの緊張。だが彼女は小さく呟いた。「大丈夫。私ならできる……」
魔力が流れ、刻印が青白く光った瞬間、鍛冶場にどよめきが走る。仲間たちが見守る中、銃身の形が少しずつ浮かび上がっていく。
一方、庭では待機組が修行を続けていた。アマネとリュシアの模擬戦を経て、皆の気持ちはさらに燃えている。ジークはヴァルガルムを振るい、炎の気配を掴もうと何度も汗を流す。アルトは盾を構え、展開の安定化に挑む。エリスティアは弓の精度を研ぎ澄まし、風の流れすら味方につける。
「それぞれが進んでいる……」アマネは木陰で刀を磨きながら、仲間たちを見守っていた。心の奥で静かな誇りを感じる。皆が強くなっていく、その中心に自分も立てていることが嬉しかった。
鍛冶場に戻ると、ミナの表情はすでに覚悟に満ちていた。夜が更け、炎の赤が青白い刻印と交じり合う。疲労で腕は重く、膝は震えていたが、それでも彼女は立ち続けた。仲間たちの声が背を押しているのを感じたからだ。
「ここで諦めるわけには……いかない!」
火花が散り、光が走る。銃の輪郭が、はっきりとした形を帯びていく。まだ完成には至らない。だが確かに、ミナは自らの手で未来を掴み始めていた。
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