卒業試験・開幕
鍛冶場の奥に、炉の熱が満ちていた。赤々と揺らめく炎を背に、ブリューナとファエリアが並び立つ。二人の視線を受けて、ミナは胸の鼓動が耳に響くのを感じた。手のひらにはじっとりと汗が滲んでいる。
「ここまでよくやってきたな、ミナ」
ブリューナの声は低く重く、だが温かさを含んでいた。「お前は仲間の武器作りを一つ一つ支え、火を見極め、金属の声を聞いた。だからこそ、次は自分自身の番だ」
ファエリアが一歩進み出る。「卒業試験だ。お前自身の武器を、お前自身の手で作り上げるのだよ」
ミナの目が大きく見開かれる。視線の先、水晶が淡く脈動し、青白い光が溢れる。その光が描き出したのは、一丁の銃。滑らかな金属の筐体に、魔力の流路が刻まれ、銃口から淡い青の脈動が漏れている。
「……《魔導銃アルキメイア》」
ファエリアが告げる。その声音は厳粛でありながら、どこか誇らしげでもあった。「才ある者にしか扱えぬ銃だ。だが、ここまで来たお前ならきっと完成させられる」
「私が……作る……?」
ミナは小さく呟いた。胸が強く締めつけられ、同時に熱く膨らんでいく。いままでの自分は、仲間の背を支えるだけだった。だが、ここで自分だけの武器を作ることができたなら――。
「……はい。やります。必ず、完成させます」
声は震えていたが、瞳には確かな光が宿っていた。
仲間たちの間から、次々に声が飛んだ。
「よく言った!」ジークが豪快に笑い、拳を突き上げる。
「ミナならできる」アルトが穏やかに頷く。
「きっと成功するよ」アマネは柔らかく微笑み、心からの信頼を込めて言葉を送った。
リュシアもまた、杖を胸に抱きながら静かに告げる。「私たちも祈っているわ。あなたの力を信じて」
ミナの胸が熱くなった。視線が少し滲む。だが涙は流さない。いまは誓いの時だ。彼女は深く頭を下げ、心の奥で固く決意を結んだ。
その頃、庭では待機組が修行に励んでいた。緑に包まれた広場に、《継杖ルミナリア》の光と、《継星刀アストレイド》の輝きが交錯する。
「いくよ、リュシア!」
アマネの瞳が鋭く光る。星の尾を纏った刀が、流星のように閃いて走った。
「受けて立つわ!」
リュシアが結界を展開する。透明な壁が広がり、光の奔流を受け止める。火花のような魔力の欠片が飛び散り、庭に小さな閃光が咲いた。
「速い……!」リュシアの額に汗が滲む。だがその瞳は決して怯んでいない。即座に詠唱し、攻撃と防御を一体化させた呪文を放つ。光の矢が雨のように降り注ぐ。
「甘い!」
アマネが踏み込み、刃を閃かせる。流星の尾のような光が矢を弾き、霧散させた。その姿にジークが感嘆の声を上げる。「やっぱすげえ……!」
アルトは真剣に見守りながら呟いた。「二人とも……前よりずっと速く、強くなってる」
刃と杖がぶつかるたびに光が走り、空気が震えた。アマネの心臓は高鳴り、だが恐れはなかった。隣に立つ仲間の強さを感じることが、むしろ嬉しかった。リュシアもまた同じだった。全力で押し返せることが、彼女の誇りを支えていた。
やがて、アマネの踏み込みをリュシアの結界が包み込む。二人は同時に攻撃を止め、呼吸を整えた。
「……いい勝負だったね」アマネが息を弾ませながら笑う。
「次は必ず勝つわ」リュシアも微笑む。その目は真剣で、負けを悔いるより次を目指す光に満ちていた。
仲間たちが拍手を送る。緊張に包まれた空気が、笑いと称賛に変わった。
再び鍛冶場に戻り、ミナは炉の前に立った。熱気に包まれ、背筋を伸ばす。これから始まる試練を思うと、胸が震えた。だがその震えは恐怖だけではない。期待と、希望と、仲間たちと共に歩んできた証がそこにある。
「私も……負けてられない。私の戦いは、ここからだ」
そう呟いた声は、小さくとも力強かった。仲間たちは誰一人として笑わず、ただ真剣にその背を見守っていた。
こうして、ミナの卒業試験は幕を開けた。
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