仲間たちの労い、そして新たなる試練
鍛冶場での作業が終わり、夜明けの空に淡い光が差し込み始めていた。アマネが手にする新たな刀――継星刀。そのお披露目の場を整えるため、仲間全員が広場に集められていた。ブリューナとファエリアも揃い、まるで式典のような雰囲気が漂う。
「いよいよだね」
ミナが少し緊張した面持ちでアマネに声をかける。アマネは頷き、刀の鞘にそっと手を添えた。その姿は女性らしい柔らかさを残しながらも、確かな覚悟を纏っていた。
「みんな、見ていて」
静寂の中、アマネはゆっくりと刀を抜き放った。刀身に星の光が走り、瞬く間に辺りを照らす。漆黒の中に散りばめられた光は夜空そのもののようで、見守る仲間の瞳を奪った。
「……すごい」リュシアが思わず声を漏らす。「星そのものを宿しているみたい」
アマネは深く息を吸い、木製の標的へと一歩踏み出した。踏み込みと同時に振るわれた刃は、流星の尾を描きながら閃光となり、標的を一瞬で粉砕した。光の粒子が宙に舞い、まるで流れ星が降り注いだかのようだった。
「……これが、勇者の刀か」
ジークが低く唸るように言った。その目には畏敬と憧れが宿っていた。
「アマネ、本当に……綺麗」
リュシアの瞳は感動で潤み、エリスティアは小さく微笑んだ。「まさに世界を導く刃、ですね」
アマネは刀を納め、仲間に振り返った。その頬にはほんのり赤みが差していたが、その声は凛としていた。「これは私一人の力じゃない。ここまで来られたのは、みんなのおかげ。そして……」
彼女の視線が、ミナへと向けられる。ミナは不意に注目を浴び、慌てて首を横に振った。「わ、わたしはただ手伝っただけで……」
だが、仲間たちが次々と口を開いた。
「いや、違うぜ」ジークが力強く言った。「あの依代を討てたのは、ミナが時間を稼いでくれたからだ」
「そうよ」リュシアも頷く。「わたしが魔法を放てたのも、あなたが隙を作ってくれたから」
「矢を放てたのも同じだな」エリスティアが静かに続ける。「あの一瞬の支えがなければ、私の矢は通らなかった」
アルトも真剣な顔で口を開いた。「戦場で誰よりも冷静に周りを見て、必要な隙を作ってきたのは君だよ、ミナ」
次々と告げられる言葉に、ミナは顔を伏せた。頬が熱くなり、胸がいっぱいで何も言えなかった。けれど、その心は確かに震えていた。自分のしてきたことが、仲間の記憶に刻まれていたのだ。
そんな彼女に、ブリューナが一歩進み出た。「……皆の言う通りだ。お前は後方支援だと自分を卑下してきたが、その役割こそ戦いの要だ。だからこそ、私たちから新しい試練を与えたい」
「試練?」ミナが顔を上げる。ファエリアも隣に立ち、柔らかな声で続けた。「この半月、君は私たちと共に鍛冶と魔道具作りに取り組み、驚くほどの成長を見せた。だからこそ次は――君自身の武器を、君の手で作り出すのよ」
「わ、わたしが……自分で?」ミナの声は震えていた。
ブリューナは力強く頷く。「そうだ。私とファエリアはお前の師として、最後の卒業試験を課す。自分の武器を自分の手で打ち上げる。それが、この半月で培った全てを示すことになる」
仲間たちが驚きと期待の入り混じった視線を向ける中、ミナは唇を噛んだ。怖さもあったが、それ以上に胸の奥に熱がこみ上げていた。
「……やってみたい。わたしも、自分の力を形にしたい!」
強い声が広場に響き渡った。その瞬間、仲間たちは一斉に笑みを浮かべた。アマネもまた、優しく頷いた。「ミナならできる。だって、今までもずっと……誰よりも私たちを支えてくれたんだから」
夜明けの光が差し込み、仲間たちの笑顔を照らす。勇者の刀が完成し、そして新たな試練が仲間へと課される。次なる舞台は――ミナ自身の武器作り。その物語が、静かに幕を開けようとしていた。
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