継星刀アストレイド・前篇
ジークの大斧が完成してから二日が過ぎた。鍛冶場にはいまだ余熱が漂い、炉の奥で赤々と揺らめく火が次なる創造を待っていた。その前に立つのはアマネ。仄暗い布に包まれた旧い刀を前に、彼女は静かに息を吸い込んだ。
「いよいよだね、アマネ」
ミナがそっと声をかける。彼女の手は火ばさみや水晶を自然に扱い、助手としての役割に自信を深めていた。かつては戸惑いがちだった手元が、いまは迷いなく動いている。その笑みには仲間への誇りと、自らの成長への確信が滲んでいた。
アマネは頷き、水晶に手をかざす。淡い光が揺らめき、未来の姿が映し出された。漆黒の鞘に収められた刃。刀身の中を細い光の筋が流れ、天を駆け抜ける流星のように瞬いていた。
「……これが、私の新しい力」
アマネの声は小さかったが、その胸の奥に湧き上がる熱は確かなものだった。
庭ではジークが轟斧ヴァルガルムを担ぎ、アルトとリュシアを相手に実戦形式の訓練を繰り返していた。振り下ろされる斧は重さと炎の気配を纏い、アルトの盾が火花を散らしながらそれを受け止める。リュシアは杖から放つ光で軌道を逸らし、三人の動きは徐々に呼吸を合わせていった。
「まだまだ荒いな、ジーク!」アルトが声を張り上げる。
「分かってる! でも必ずものにする!」ジークは歯を食いしばりながら返した。
そのやり取りを見ていたギルド所属の亜人戦士――ランドルフは、腕を組んで小さく頷く。「強くなってるな。仲間がいるからだ」
鍛冶場では、槌音が再び夜を震わせていた。ブリューナが炎の色を見極めて鉄を打ち延ばし、ミナが水晶を覗き込みながら刀身の反応を読み取る。彼女の額にも汗が滲むが、手元は確かだった。ミナにとっては鍛冶の一打一打が修行であり、友の未来を形づくる責任でもあった。
「星々は巡り、消えてはまた輝く。アマネ、お前の刀はその循環を受け継ぐものになるだろう」
ブリューナの声が響き、火花が飛び散るたび、ミナは槌の音と呼応するように心を刻んでいた。かつての自分なら見逃していた炉の揺らぎや鉄の音色を聞き分け、補助を超えて鍛冶の一端を担いつつあった。
夜が更け、炉の炎が揺らめく。まだ完成には遠いが、アマネは仲間と共にその姿を見守り続けた。鍛冶場に立ち込める熱気の中で、希望の光が刃へと宿り始めていた。
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