鍛造の始まり—リュシア
翌朝、月隠れの洞窟に淡い光が差し込んだ。澄んだ空気に朝露の香りが漂い、仲間たちは一人、また一人と目を覚ましていく。その中でリュシアは静かに身支度を整え、深呼吸を繰り返していた。今日、自らの武器を生み直すのだという緊張が胸を締めつけていた。
「……大丈夫、私なら」小さく呟くと、胸の奥に宿る決意がわずかに強さを取り戻す。
◇
鍛造場に入ったのは、リュシアとブリューナ、ファエリア、そしてミナだった。炉には星映水晶のコアが据えられ、橙色の炎が脈打つように揺れている。
「準備は整っている。さあ、始めようか」ブリューナが低い声で言い、鉄槌を握った。
ファエリアは水晶を手で撫で、魔力の流路を刻むための光の紋章を展開する。「リュシア様、祈りを込めてください。杖はあなたの心に応えます」
リュシアは杖の欠片を胸に抱き、目を閉じた。かすかな祈りの言葉が口から漏れる。炎がその声に共鳴し、杖の原型がゆっくりと姿を現し始めた。ミナは隣で魔力計を操作し、流れが乱れないように補助する。汗を額ににじませながらも、その表情は真剣だった。
「……光が形を帯びていく……」リュシアの指先から、淡い輝きが杖に流れ込み、杖は次第に完成形へと近づいていく。
◇
その頃、庭ではアマネ、アルト、ジーク、カイルが訓練を始めていた。アルトは木製の練習盾を構えて試行錯誤していたが、思うように重心が取れず、苦笑いを浮かべる。
「やっぱ剣一本とは勝手が違うな……」
「慣れだよ」アマネが軽く肩を叩いた。「でも守る構えはアルトに似合ってる」
ジークは丸太を担ぎ上げ、腕力を試すように振り回している。「斧の幻影があんなにでかいなら、俺も鍛えておかねえとな!」
カイルは光の幻影を前に、杖の構えを慎重に試していた。「杖と本を同時に扱う……意外と難しいですね」
四人の笑い声と掛け合いが庭に響き、重苦しい空気を払っていた。
◇
鍛造場に戻ると、炎の中から新たな杖が姿を現していた。光と祈りを纏ったその杖は、精霊たちの囁きに共鳴するように淡い輝きを放つ。リュシアが両手でそっと受け取ると、杖の名が自然と心に刻まれた。
継杖ルミナリア。
「……これが、私の新しい力」リュシアの瞳に涙が浮かんだ。だがそれは不安ではなく、確かな希望の輝きだった。
鍛造場の扉が開き、庭で訓練していた仲間たちが駆け込んでくる。「できたのか!」アマネが声を上げ、アルトとジークも目を見開いた。
リュシアは微笑み、杖を高く掲げた。その光が仲間たちを包み、朝の洞窟に新しい一歩を告げた。
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