武器の幻影・後篇
ブリューナは口角をわずかに上げ、水晶の欠片をもう一度掲げた。「さて、残りの者たちの幻影も見せてやろう。心の準備はいいか?」
場に緊張が走る。仲間たちは息をのんで水晶を見つめた。淡い光が走り、部屋の中央に新たな幻影が浮かび上がる。
◇
最初に現れたのは、銀白の輝きを放つ剣と、堅牢な盾だった。盾は夜空の星々を象った紋章を刻み、剣はそれに呼応するかのように淡い光を宿している。
「……これが、俺の……?」アルトは目を見開き、両手を伸ばす仕草をした。剣と盾が彼の意志に応えるように揺らめき、光を強める。
ブリューナが静かに告げる。「名は《黎剣セラフィード》。夜明けを告げる盾と共に、お前の道を切り開く剣だ」
アルトはしばし言葉を失い、やがて深く息を吐いた。「……剣と盾、両方を背負うのか。父上のように」
アマネがにやりと笑う。「アルトらしいじゃん。仲間を守りながら戦うってやつだろ?」
◇
続いて、荒々しい赤い光がほとばしり、巨大な斧が姿を現した。刃は雷鳴のように唸りを上げ、柄は大地の力を宿すかのように重厚だった。
「おお……!」ジークが思わず声を上げる。「こいつは……すげぇな」
ブリューナの声は低く響く。「《轟斧ヴァルガルム》。雷と大地の力をその身に宿し、振るうたびに嵐を呼ぶ」
ミナが目を輝かせた。「ジークにぴったりだよ! でも……家の床は抜けちゃうかも」
仲間たちの笑いがこぼれる中、ジークは豪快に笑い返した。「なら外で思いっきり振るうさ!」
◇
次に浮かび上がったのは、輝く杖と開かれた聖典だった。杖は純白の光を放ち、本のページは自らめくれ、祈りの文言が淡く浮かぶ。
「……杖と、本?」カイルは驚きに目を瞬かせる。
「そうだ」ファエリアが頷いた。「《祈聖書ルーメナス》。聖なる言葉を記す書と、それを導く杖。治癒と祈り、その両輪が揃うとき、真の力を発揮する」
カイルは胸に手を当て、静かに微笑んだ。「……これが、僕に託された力なんですね」
◇
最後に、水晶から細かな光の粒が飛び散り、一丁の銃が姿を現した。滑らかな金属の筐体に魔力の流路が刻まれ、銃口には淡い青光が脈動している。
「わ……!」ミナは思わず声を上げ、頬を赤らめた。「これ……私の?」
ブリューナが力強く頷く。「《魔導銃アルキメイア》。術式を弾丸に込め、放つたびに魔法を紡ぐ。才ある者にしか扱えぬ、未来を切り拓く銃だ」
ミナは銃の幻影に手をかざし、小さく息を呑んだ。「すごい……。私に、こんなものを……」
アマネが優しく声をかけた。「ミナだからこそ、だと思うよ。きっと上手く扱える」
◇
すべての幻影が現れた後、部屋は静まり返った。仲間たちは互いに顔を見合わせ、それぞれの未来を感じ取るように武器を見つめる。
ブリューナは腕を組み、低く言葉を結んだ。「だが、これらはあくまで幻影にすぎん。本当の武器に鍛え上げるには、鍛造の試練が待っている」
ファエリアが微笑みを浮かべた。「その時こそ、あなたたちの絆が真価を示すでしょう」
仲間たちは静かに頷いた。新たな武器への期待と、不安と、胸を熱くする決意が、その場を確かなものへと変えていった。
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