光に映るもの
アマネが星映水晶に触れた瞬間の輝きは、まだ広間の隅々に残っていた。仲間たちは互いに顔を見合わせ、次なる一人を促すように視線を交わす。
「次は私が」リュシアが静かに一歩を踏み出した。杖を抱きしめたまま祭壇へ進み、深呼吸をひとつ。彼女の指先が水晶に触れると、結晶の内部に淡い銀光が揺らめいた。やがて月のような光輪が浮かび、柔らかな冷気が広間を包み込む。
「……きれい」アマネが小声で漏らした。銀の光は凛としながらも優しく、見守る者の心を静めるようだった。
ファエリアは目を細める。「澄んだ光……整然とした流れを示しています。術と祈りを支える力でしょう」
リュシアは胸に手を当て、静かに微笑んだ。「これが、私の内にあるものなのですね」
◇
次に進み出たのはアルトだった。彼は剣を横に置き、真剣な表情で水晶に掌を添える。瞬間、重々しい大地の響きのような震動が広間に伝わった。結晶は淡い褐色の光を帯び、輪郭のような盾の影が浮かび上がる。
ジークが思わず唸った。「……堅えな。まるで岩盤だ」
ブリューナが頷く。「守りと支え。その性質が強く出ているな。仲間を守る器だ」
アルトは安堵の息を吐いた。「父上に胸を張れる結果かもしれません」
◇
続いてジークが前へ出た。逞しい腕で水晶に手を置いた瞬間、赤々とした火花が弾け飛ぶ。炎のように揺れる光が水晶を満たし、周囲の空気を熱で震わせた。
「おお……!」リュシアが思わず身を引く。
ブリューナがにやりと笑う。「単純明快、力の光だ。火を背負う者に相応しい」
ジークは歯を見せて笑った。「悪くないな。俺に似合ってる」
◇
次に歩み寄ったのはカイルだった。錫杖を軽く掲げ、祈るように水晶へ手を添える。淡い翠色の光が広がり、風の囁きのような響きが一同の耳に届いた。光は旋律のように揺れ、柔らかな護りの気配を帯びている。
「風の流れ……」ファエリアが静かに呟く。「癒しと守護の適性を示しています」
カイルは小さく頷き、ほっと息を漏らした。「……これが、私に与えられた道なのですね」
◇
次に進み出たのはエリスティアだった。王妃の従者として背筋を正し、水晶の前に立つ。指先が触れた瞬間、翡翠のように澄んだ緑光が結晶からあふれ、広間に弓の形を象る輝きが現れた。周囲に森のざわめきのような気配が広がり、清新な風が頬を撫でていく。
「……森の気配」アマネが思わず呟く。
ファエリアは微笑む。「自然と調和し、矢として放たれる力。森に選ばれし者の証でしょう」
エリスティアは深く頭を垂れた。「フローラ様のお傍にあるために、この力を磨いてみせます」
フローラは静かに頷き、従者を誇らしげに見守っていた。
◇
最後に、ミナが恐る恐る歩み寄った。両手で端末を抱えたまま、水晶の前に立つ。震える指を伸ばすと、結晶の中に細やかな紋様が走った。まるで無数の回路が描かれるように、光の線が複雑に絡み合っていく。
「……すごい」アマネが目を丸くする。「模様が止まらない」
ファエリアは驚きの表情を浮かべた。「これは……理と制御の光。珍しい適性です。知識と技を結びつける資質……魔導技師の器でしょう」
ミナは顔を赤らめ、しかし目を輝かせていた。「わ、私……やっぱりこの道を進みたい」
アマネが笑って肩を叩く。「いいじゃない! ミナにしかできないことだよ」
◇
こうして全員が水晶に触れ、己の光を確かめた。契約には至らずとも、それぞれの道筋が浮かび上がった瞬間だった。広間の空気は清らかに澄み、仲間たちの胸には新たな決意が芽生えていた。
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