星映水晶の前に
洞窟の奥に据えられた祭壇。その中央に、拳ほどの大きさを持つ結晶が鎮座していた。淡い青白い光を放ちながら、脈動のように微かに震えている。それが――星映水晶の欠片だった。
「これが、私たちの適性を映す……」リュシアが小さく呟き、胸に杖を抱きしめる。彼女の声には緊張が滲んでいた。
「心配することはないさ」ブリューナが両腕を組み、炉の前から歩み寄る。「水晶はありのままを映すだけだ。嘘も虚飾も通じない。だが恐れることもない。見えたものを受け止めればいい」
ファエリアが隣で頷いた。その指先が水晶をなぞると、淡い光が広間に広がった。「これは契約ではありません。ただの確認に過ぎません。ですが……ここで見える適性が、あなたたちの武器を形作る基盤となるでしょう」
アマネは唾を飲み込み、思わず肩を竦めた。「うぅ……なんか緊張する」
「勇者様でも緊張なさるのですね」フローラが口元に微笑を浮かべた。エリスティアも横で静かに頷いている。
アルトが軽く笑い、場を和ませようとする。「失敗するようなものじゃない。映るのは、アマネの中にある光だよ」
「分かってるけど……」アマネは頬を膨らませた。少し前の道中での愚痴が頭をよぎる――「お父さんはいつも教えてくれない!」。きっとこの水晶も同じように、答えを全部は示してくれないのだろう。
「じゃあ、誰から試す?」ジークが腕を組み、仲間を見回す。
ブリューナは即座にアマネを指さした。「勇者が先だろう。仲間の旗印になる存在が、まず己の適性を示すべきだ」
「う……やっぱりそうなるのか」アマネは深呼吸をひとつし、結晶の前へ歩み出た。仲間たちの視線が一斉に集まり、広間の空気がぴんと張り詰める。
「アマネ」リュシアが小さく呼びかけた。その声に背を押されるように、アマネは両手を伸ばした。
指先が水晶に触れた瞬間――
ぱあっと眩い光が弾けた。結晶の内部に、太陽のような黄金の環が揺らめき、瞬時に広間全体を照らし出す。その光は激しくも暖かく、仲間たちの心を掴んで離さなかった。
「……これが、私の……」アマネの瞳が見開かれる。胸の奥に熱が込み上げ、言葉が続かない。
ブリューナが低く唸った。「ほう、力強い輝きだ。だが粗削りだな。まだ研ぎ澄まされていない」
ファエリアは静かに補足した。「確かに光は顕れました。しかしこれは契約ではありません。あなたが歩みを進めた先に、より明確な姿を得るでしょう」
アマネは大きく息を吐き、仲間たちの方を振り返った。「みんな……こんな感じだったよ」
リュシアは微笑み、アルトは真剣な眼差しを返す。ジークは「次は俺か」と肩を回し、ミナは興味津々で水晶を見つめていた。
こうして、星映水晶の前での試みが始まった。仲間それぞれが己の適性と向き合う時間――その幕が、いま上がったのである。
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