漫才コンビ?—ジークとミナの日常
模擬演習から数日。
緊張と疲労の余韻は薄れ、学園は再び日常のリズムを取り戻していた。訓練場には掛け声が響き、中庭には昼下がりの笑い声。戦場帰りの昂揚と安堵がまだ入り混じっている。
「よーし……これで完成!」
工房の机に腰を乗り出し、ミナが両手を広げた。金属の弓枠と複雑な滑車を組み合わせた装置が光を反射する。
「……なんだそりゃ」ジークが斧を肩に担ぎ、訝しげに覗き込む。
「自動射出弓! 矢をまとめて放てる画期的発明よ!」
「弓は腕で引いて狙うもんだろ」
「だからそれが効率悪いの! 私は“同時に六本”撃てるの!」
「そんなの制御できねぇだろ!」
ミナはにやりと笑い、試射台に装置を固定した。
「じゃあ証明するわ! 見てなさい!」
――がちゃん。引き金を引いた瞬間、矢は六方向に四散し、壁や天井や床に突き刺さる。一本はジークの頭上をかすめ、彼の髪が数本舞った。
「……殺す気かァァ!!」
「ご、ごめん! でも狙いの半分は的に当たったでしょ!」
「半分外れてんだよ!!」
怒鳴るジークの顔は真っ赤。だが見物していた生徒たちは腹を抱えて笑っている。
⸻
午後の訓練場。
ジークが上半身裸で大斧を振るい、丸太を一刀両断した瞬間、歓声が沸いた。
「すげぇ……!」
「力任せに見えて、軌道が正確だ」
汗が飛び散り、陽光を浴びた筋肉が眩しい。
「ほら見ろ、これが本物の武器だ!」
ジークが胸を張ると、ミナがすかさず両手を広げた。
「はいはい! でも効率的には私の新発明も負けてないから!」
再びあの自動弓を構える。生徒たちがざわめく中――。
「やめろぉぉぉ!」ジークが飛びかかって装置を押し倒した。
矢が空に乱射され、青空に小さな点々を残して消えていく。生徒たちは爆笑の渦に。
「……お前な」ジークは地面に倒れたまま呻いた。
「俺が止めなきゃ死人が出てたぞ」
「でも盛り上がったでしょ!」ミナは悪びれず笑う。
「お前は戦士じゃなくて芸人志望か!」
⸻
夕方、工房。
二人並んで椅子に座り、夕陽が差す窓辺で息を整えていた。
「……俺は真面目にやってんのに、いつも泥かぶるの俺だ」
「だって、私の実験に一番付き合ってくれるの、ジークだもん」
「……はぁ」ジークは呆れたようにため息をついたが、口元は緩んでいた。
「ほんと敵わねぇな」
「でしょ?」ミナは無邪気に笑って胸を張る。
工房の壁にかかる影は二人分。
戦場では得られない、賑やかで泥だらけの時間。
それが“仲間”の証なのだと、見ていた誰もが思った。
ちょいコメディ寄りの整え回。次も準備でき次第載せます。ブクマ&感想が励みです。




