王妃の帰還
クラリスとユリウスの護送によって、ルナリア王妃フローラが城下に到着したという報せは、勇者一行の耳にすぐ届いた。彼らは王城を出たその足で駆けつけ、館の前で足を止めた。夜の帳が降り、灯された燭台の光が揺れる中、その場の空気には張り詰めた静けさが漂っていた。
扉が開き、クラリスが姿を現す。緊張の色を残しながらも、その表情には安堵が浮かんでいた。「勇者殿……無事にここまでお連れしました。フローラ様は中に」
その言葉を受け、アマネは深く頷いた。彼女の瞳には心配が宿っていたが、無理に気負うことはなく、自然な調子で答える。「ありがとう、クラリス。案内してくれる?」
館の奥、薄明かりの広間に、フローラの姿があった。王妃としての威厳を纏いながらも、旅路の疲れを隠しきれず、椅子に腰を下ろしている。ユリウスが傍らに控え、静かに周囲を警戒していた。
リュシアが杖を胸に抱き、真摯な面持ちで膝を折る。「フローラ様、ご無事で何よりです」
アルトも剣を脇に立て、深く一礼した。「王国の皆にとって、この帰還は大きな光となるでしょう」
フローラはわずかに微笑み、彼らを見渡した。その瞳には揺るぎない意志が宿っている。「皆の尽力に感謝します。……私は大丈夫です。たとえ魔王が復活しようとも、ルナリアは揺らぎません」
その言葉に、エリスティアが一歩前に進み出た。彼女は膝をつき、深く頭を垂れる。「フローラ様、従者エリスティア、ここに帰参いたしました。再びお側に仕えることをお許しください」
「もちろんです、エリスティア」フローラは優しく頷いた。「あなたがいてくれることは、私にとっても心強い」
場の空気がわずかに和らぎ、アマネも肩の力を抜いた。彼女は小さく息をつきながら言葉を続ける。「フローラ様のご無事を確認できて、本当に安心しました。これからのことを、力を合わせて考えていきましょう」
フローラは頷き、静かに立ち上がった。まだ完全に疲労は抜けていないはずだが、その背筋は真っ直ぐで、王妃としての誇りが全身から溢れていた。「ええ。王国を守るために、私も歩みを止めるわけにはいきません」
クラリスとユリウスが控える中、勇者一行と王妃は向き合い、短いながらも確かな絆を確認し合った。魔王復活という未曾有の脅威に立ち向かうには、王国の力をひとつにすることが不可欠。その第一歩が、いま確かに刻まれたのだった。
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