謁見後の会話
謁見を終え、重苦しい空気を引きずったまま勇者一行は王城の中庭に集まっていた。夜の風が冷たく頬を撫で、月光が白い石畳を淡く照らしている。玉座の間の緊張から解放された彼らは、それぞれ胸に渦巻く思いを吐き出した。
「……魔王は不完全だったとはいえ、放っておけば必ず力を増す」アマネが静かに言う。「時間との勝負だ」
リュシアは杖を抱きしめ、俯いた。「救うべき人が増えるほど、私の力が足りなくなる気がして……怖いのです」
「国の資源も有限だ」アルトは唇を引き結ぶ。「戦と政治、両方を秩序立てねばならないが……板挟みのままだ」
カイルは眉をひそめて首を振った。「依代の糸を祈りで解く術……まだ未完成だ。間に合わなければ……」
「通信網は広げられる」ミナは端末を握りしめる。「でも、敵に妨害されたら台無し。管理と防衛の手も必要だ」
「訓練も治安維持も、追いつかねぇ」ジークが腕を組み、歯噛みした。「俺一人じゃ抑えきれん場面が増えてきてる」
仲間たちの声が重く沈む中、柔らかな声がそれを和らげた。
「――大丈夫です」
振り返ると、王妃エリシアが中庭に歩み寄っていた。彼女の目には、友を想う温かな光が宿っている。彼女の隣には、帰還したエリスティアの姿もあった。その並びを目にして、皆がはっと息を呑んだ。
「精霊たちは孤立してはいません」エリシアは穏やかに告げる。「ドワーフのブリューナは鍛冶と細工に秀で、骨格や強度、精密部品を作り出せる。エルフのファエリアは魔道具師として魔力流路や加護の刻印、精霊との同調を担っています」
エリシアは言葉を重ねる。「彼女たちはルシアンたち庵の仲間とも既に親しく、拠点は月隠れの洞窟の近くにあります。星映水晶の欠片や黒耀鋼、黎明鉱といった希少な鉱石を扱える。ミナ、あなたが望むなら、彼らのもとで“魔導技師”として学べるでしょう」
彼女は一人ひとりを見回し、優しく頷いた。「彼らもきっと、あなたたちの力になってくれる」
言葉は静かだったが、確かな灯火のように胸に響いた。重く沈んでいた仲間たちの表情に、わずかな光が差す。アマネは深く頷き、リュシアは安堵の息を漏らし、アルトはまっすぐに未来を見据えた。
七人は互いに視線を交わし合う。その瞳には再び同じ決意が宿っていた。――共に進むのだ、と。
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