王城での謁見
玉座の間に重苦しい空気が漂っていた。高い天井に描かれた聖獣の壁画でさえ、今はどこか色を失って見える。王国の中枢に集った視線は、一様に勇者一行へと注がれていた。
「……以上が、封印の地で確認した異変です」
アマネが深く頭を下げて言葉を締めた。その横でリュシアも杖を胸に抱きしめる。アルトは視線を逸らさず、国王の前に立ち尽くしていた。カイル、ミナ、ジークも緊張を隠せないまま、背筋を伸ばしている。
国王アルフォンスは沈痛な面持ちで頷いた。「魔王が……蘇ったというのだな」
「はい。ただし、まだ完全ではありません」アルトが続ける。「瘴気は強大ですが、その身に馴染みきってはいないように見受けられました」
「それでも十分に脅威だ」王妃エリシアが口を開いた。彼女の声は落ち着いていたが、その指先は玉座の肘掛けを固く握りしめている。「いずれ馴染めば、人界の均衡は容易く崩れるでしょう」
玉座の間にざわめきが広がろうとした、そのときだった。扉が開き、凛とした足音が石床を響かせた。
「……エリスティア」
最初に名を呼んだのは王太子レオンだった。玉座の間に現れたのは、長旅の疲れを帯びながらも毅然とした姿の彼女だった。仲間たちの顔が驚きと安堵で明るくなる。
「陛下。ご報告がございます」
エリスティアは深く礼をし、静かに告げた。「世界樹は無事です。私は精霊の守り人と念話を交わし、彼らの存在を確認しました。根は侵されておらず、今も彼らは揺るぎなく守り続けています」
玉座の間に広がっていた不安の波が、一瞬だけ静まった。国王は深く息を吐き、王妃は目を閉じて祈るように頷いた。重臣たちも顔を見合わせ、わずかに肩を落とす。
「よくぞ戻った、エリスティア」アルフォンスが言葉をかける。「その報せは、この国にとって光だ」
「……しかし、安心するのはまだ早い」王太子レオンが声を引き締めた。「魔王が不完全である今こそ、備えを整えねばならない」
勇者一行とエリスティアの視線が交わる。互いに言葉はなくとも、その瞳には同じ決意が宿っていた。
「本日の謁見はここまでとする」国王の声が玉座の間に響く。「勇者たちよ、王都に留まり、次なる策を共に練ってほしい」
深々と頭を下げる一行。その胸の内には、まだ見ぬ戦いへの緊張と、再び得た仲間への安堵が交錯していた。
――こうして、王城での再会と報告は終わりを告げた。
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