揺らぐ人の影
宰相の刃と教皇の闇炎が荒れ狂い、封印地の空は黒雲に覆われていた。瘴気の奔流は大地を裂き、六人の体力を容赦なく削っていく。
「くっ……速い！」
アルトが剣で宰相の斬撃を受け止める。鋭さと重みは尋常ではなかった。人の身でありながら、魔物と同等の膂力を振るう――その代償に、眼差しはもはや人の光を失いつつある。
「まだ人の形は保っているのに……！」リュシアが杖を握りしめ、祈りを込める。「どうしてここまで……！」
「不滅のためだ！」教皇が狂信者のように叫び、漆黒の火球を放った。「死に縛られる愚者どもと違い、我らは永遠に在る！」
火球が炸裂し、爆風が六人を飲み込む。
その中で、ミナが閃光弾を投げつけ、視界を切り裂いた。
「永遠？ 笑わせないでよ！」彼女が叫ぶ。「あんたたち、ただ怖いだけじゃん！ 朽ちていくのが！」
「黙れ小娘が！」宰相が怒声を放つ。だが、その目には一瞬だけ、人としての影が揺らいだ。
◇
「……まだ、揺らげる！」カイルが声を張る。掌を組み、祈りを紡ぐ。その光が宰相と教皇の身体をかすめた瞬間――二人の顔がわずかに歪み、苦悩を浮かべた。
「う、ぐ……！」
「……やめ……」
ほんの一瞬だけ、迷いが垣間見える。
「今だ！」アマネが駆け出し、刀を振り抜いた。
リュシアがそれに重ねて光の陣を広げ、仲間の力を束ねる。
ジークの剣、アルトの突撃、ミナの閃光、カイルの祈り――
それぞれの想いが重なり、淡い共鳴の光が奔る。
「……これが……！」リュシアが息を呑む。
星と祈りが重なり合い、六人を中心に光が広がった。黎明衝波――その未完成の片鱗が、封印地を照らし出す。
「ぐああああっ！」
宰相と教皇は光に弾かれ、地に叩きつけられた。黒い瘴気が揺らぎ、二人の肉体はひび割れるように軋む。
◇
「はぁ……はぁ……！」ジークが剣を握り直し、歯を食いしばる。
「やったのか……？」アルトが息を荒げて呟く。
「……いや」アマネは刀を下ろさず、目を細めた。
倒れてなお、宰相と教皇は立ち上がろうとしていた。
「愚かなる小娘ども……」宰相が唇を歪める。
「この身を……ただの人と侮るな」教皇が血を吐きながら笑う。
二人の背から瘴気が再び吹き出し、空を裂くように渦を巻く。
「……っ！」リュシアが杖を構え直した。「まだ……終わってない！」
六人の胸に、不安と覚悟が同時に広がっていく。
これから先、二人は――もはや人として留まることはないかもしれない。
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