表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

324/471

人の皮を被った怪物

封印地の風は重く、空気は鉛のように沈んでいた。瘴気の柱を背に、宰相と教皇が両腕を広げ、二人分の狂気が場を覆う。

「勇者、聖女……そしてその仲間たちよ。ここまで来たことは称えよう」

宰相の声は妙に澄み、しかし耳の奥にざらつきを残す。

「だが、貴様らの正義も祈りも、全ては無意味だ。時代は変わる。我らが新しき秩序を築くのだ!」教皇が咆哮する。瞳は狂信の光に揺れ、人間らしさを欠いていた。

アマネは前へ出て刀を構えた。肩越しに仲間を振り返る。「……救えるなら救いたい。でも、もう迷いは許されない」

リュシアが頷き、杖に光を灯す。「命を弄ぶのではなく、守るためにこそ……力はあるべきです!」

戦端は唐突に開かれた。宰相が手を振ると、空気が裂け、黒刃が無数に降り注ぐ。教皇は祈りの逆型を紡ぎ、炎の奔流を闇に染めて放った。

「散開!」アルトの声が響き、六人は即座に動いた。

ジークは剣を大きく振り抜き、黒刃を弾き飛ばす。ミナは爆煙弾を投げ込み、教皇の炎を拡散させて威力を削ぐ。カイルの祈りは仲間の身を光で覆い、リュシアの結界と重なり合って防壁を築いた。

「……はぁっ!」アマネの一閃が、宰相の放つ瘴気を切り裂く。星の粒子が舞い、闇の中に一筋の道が開かれた。

「甘い!」宰相が踏み込み、瘴気を纏った腕でアマネを弾く。咄嗟にアルトが割り込み、刃を交錯させて押し返した。

「お前たち……本当にまだ人間なのか?」アルトの叫びに、宰相はかすかに笑う。

「人を超えたのだ。我らは……不滅へと至る」

戦いは拮抗しつつも、六人に疲労が蓄積していく。宰相と教皇は互いに補い合うように攻撃を繰り出し、その力は増幅していた。

「……まだ、戻せるはずだ」カイルが祈りを強める。淡い光が宰相の胸に届き、一瞬だけ苦悶の影が浮かんだ。

「やめろ……その光を向けるな!」宰相が叫び、胸を押さえる。しかし、すぐに黒い瘴気が覆い隠す。

リュシアが息を呑む。「まだ、人の心が……」

「迷うな、リュシア!」ジークが怒鳴る。「そんなんじゃ、斬られるぞ!」

その言葉をかき消すように、教皇が叫んだ。「人の弱さこそ捨て去るべきだ! 我らは神に代わり、新世界を築く!」

炎と瘴気が重なり、巨大な奔流となって六人を襲った。結界が軋み、光が弾ける。

「くっ……!」アマネが踏ん張り、刀を地に突き立てて結界を張る。だが押し切られるのは時間の問題だった。

アルトが低く唸る。「……本当に、もう人には戻れないのか……?」

戦場に重苦しい沈黙が落ちた。希望と絶望の狭間で、六人はなおも立ち続ける。宰相と教皇の瞳は、確かに人の形をしていながら、人を超えた欲望に塗りつぶされていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ