瘴気の饗宴—人の枷を外す者たち
封印地に満ちる瘴気が渦を巻き、宰相と教皇の身体を覆っていく。黒い靄が肉に絡みつき、まるで意思を持った蛇のように蠢いた。
「……ぐ、ふ……!」
宰相が呻き、額から血管のように黒い紋様が浮かび上がる。次の瞬間、肩から腕へと甲殻が生え、指先は鋭い鉤爪へと変貌していった。
「見ろ……これが不滅の証だ……!」
声は人のものでありながら、響きは瘴気に溶け、獣じみた咆哮と混じり合う。
教皇もまた、祈りの姿勢を崩し、顔を仰け反らせていた。眼は血のように赤く染まり、口からは黒煙が漏れ出す。背から生えた異形の翼が広がり、周囲の瘴気をさらに濃くする。
「神は沈黙した。ならば我は魔に仕え、永遠を得る!」
六人は一歩後ずさり、思わず構えを固める。
「……人間だったはずの、あいつらが……」アルトが低く呟く。
「もう、戻れないのか……?」ジークの声は悔しさに震えていた。
リュシアが杖を握りしめる。彼女の眼差しは揺れていたが、決意を込めて仲間に告げる。
「迷ってはいけない……彼らは、自らの意志でここに堕ちた。私たちが止めなければ――」
アマネも刀を構え、頷く。
「……進もう。ここで退けば、封印は崩れる」
◇
宰相は口元を歪め、両手を広げた。その足元に黒い紋様が広がり、大地に陣を描いていく。瘴気の糸が絡み合い、封印の力を喰らうように脈打ち始めた。
「これぞ復活の刻! 魔王様はすでに目覚めを待ちわびておられる!」
教皇が異形の翼を広げ、空に向かって咆哮する。その声が合図のように、瘴気が爆ぜ、空気が焼け焦げる匂いが漂った。
「儀式……!」カイルの顔色が険しくなる。
「止めなきゃ!」ミナが爆符を握りしめた。
六人は一斉に駆け出す。だが、宰相と教皇を包む瘴気は厚く、近づくだけで体力を奪われるようだった。
「来るがいい……だが、お前たちの刃も祈りも、この陣の前では無力だ!」
宰相の嘲笑が響く。六人はなおも前進を続けた。封印地を賭けた戦いが、ここから始まる。
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