封印地の影—黒幕の顕現
黒い甲殻に覆われ、腕は鋭い刃のように変じた巨躯の魔物が、最後の咆哮を上げた。地を震わせながら突進してくるその姿に、六人は一斉に構える。
「ここで終わらせる!」
アマネが刀を振り上げ、 《星映刀》が光を放った。その刃に呼応するようにリュシアの《星映杖》が輝き、仲間たちに守りの光を纏わせる。
「はあああッ!」
ジークが正面から斬り込み、巨躯の動きを止める。アルトがその隙を逃さず、鋭い突きで甲殻の継ぎ目を狙った。ミナは仕込んだ爆符を投げ込み、閃光が甲殻の裂け目をさらに広げる。
「今だ、アマネ!」
カイルの祈りが声となり、光の導きを与える。
アマネの一閃――星閃一刀が仲間の力を束ねて放たれた。
刹那、星の奔流が巨躯を貫き、黒い甲殻は粉々に砕け散った。魔物は断末魔の声を残し、瘴気の粒子となって消えていった。
◇
戦場に静寂が訪れる。荒れ果てた地に、六人の荒い息遣いだけが響いた。
「……勝ったな」ジークが剣を下ろし、汗を拭う。
「まだ、ここは入り口にすぎない」アルトが険しい表情で周囲を見渡す。
遠く――地平線の先に、異様な気配が漂っていた。
それは光を拒絶するかのような黒雲。瘴気の塊が渦を巻き、天へと伸びる柱のように立ち上っている。その中心にあるのが、魔王の封印地。
「……あれが」リュシアの声は震えていた。
「魔王の封印が弱まっている証だ」カイルが低く答える。
六人は互いに視線を交わし、決意を新たに歩みを進めた。
◇
やがて、封印地の外縁にたどり着いた時だった。
「よくぞここまで来たな……勇者、聖女、そしてその仲間たちよ」
低く湿った声が、瘴気に溶け込むように響いた。
霧の中から現れたのは、二つの影。豪奢な衣を纏いながらも、その眼差しには狂気と欲望が宿っている。
宰相マクシミリアン・フォン・ヴァレンティスと教皇ヴィクトル・デ・ローザリア――。
「……やっぱりお前たちが」アルトが反射的に剣を構える。
「すべて仕組んでいたのか……!」ミナが息を呑む。
宰相は薄く笑い、手を広げた。
「仕組んだ、か。そうとも。数十年の時をかけ、この刻を迎えたのだ。我らは不滅の命を手に入れる。魔王様の御前にてな」
教皇も同調するように、祈りの形を崩した手を広げる。その姿はもはや信仰ではなく、狂信そのものだった。
「神は滅び、魔が真の秩序をもたらす……お前たちの足掻きはここで潰える!」
瘴気が爆ぜ、周囲の大地が震える。六人は確信する――すべての混乱の黒幕が、この二人だったのだと。
封印地を守る戦いは、今まさに幕を開けようとしていた。
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