伝わる刃—勇者から戦友へ
戦場の熱気はまだ冷めきっていなかった。瘴気の残り香が漂う谷間で、六人はそれぞれに傷を負いながらも立っていた。ネビロスを退けたものの、その影は胸に焼き付いている。
「……あの時、確かに光が重なった」
リュシアが杖を見つめ、かすかに呟いた。
「でも、まだ未完成だったな」アルトが息を吐く。「押し返しただけだ。次は……確実に倒さなきゃならない」
◇
アマネは刀を地に突き、肩で息をしながら周囲を見渡した。瞼の奥に、戦いの最中に走った“光の共鳴”の感覚が残っている。
――あの時、みんなと気持ちが繋がった。
でも、完全じゃない。もっと深く踏み込めるはず。
視線の先で、ジークが黙って剣を拭っていた。普段なら声を荒げる彼が、珍しく言葉を探している。
「……ジーク」
アマネが歩み寄る。その声にジークが顔を上げた。
「さっき……自分の剣じゃ斬れないって言ってたでしょ」 「……ああ」ジークは苦笑する。「結局、俺はお前の補佐でしかないのかって、思っちまった」
アマネは首を振った。 《星映刀》が月光を反射し、淡く光を散らす。
「違うよ。あの時、ジークの剣がなかったら……私は光を繋げられなかった」
ジークの目が驚きに見開かれる。
「あなたの剣筋が、道を開いた。だから私の一閃は通じたんだ」
アマネの言葉は、迷いなく響いていた。あの瞬間を共有した者にしか分からない確信。ジークは拳を握り、胸の奥に熱を感じる。
「……マジで言ってんのか」
「うん。私一人じゃ足りない。勇者って肩書きがあっても……仲間がいなきゃ、希望は形にならない」
◇
その瞬間、ジークの胸に走った感覚があった。刃と刃が響き合うような共鳴。 《星映刀》から溢れる光が、彼の剣に薄くまとわりついた。
「これは……」
ジークが剣を構えると、刀身が淡く輝きを帯びる。瘴気に汚れた岩壁へ一閃。刃は確かに瘴気を断ち、黒い糸が弾け飛んだ。
「斬れた……!」
アマネが頷く。「ほらね。勇者じゃなくても、できるんだよ」
ジークは剣を見つめ、そして照れ隠しのように笑った。
「……くそ、やっぱりお前はずるいな。そんな風に言われたら、もう迷えねぇじゃねえか」
アマネも微笑む。二人の間に、言葉以上の確かな絆が芽吹いていた。
◇
その様子を遠くで見ていたアルトが小さく呟く。 「……勇者と聖女だけじゃない。俺たち全員が……光になる」
夜風が瘴気を吹き払い、星空が顔を覗かせた。六人の旅路はまだ続く。しかし、その刃は確かに伝わり始めていた。
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