黎明衝破の片鱗
瘴気の渦巻く谷間で、六人は追い詰められていた。剣を振るうジークの腕は傷だらけで、アルトの呼吸は荒い。ミナの仕掛けた爆雷は数を減らしたが、次々と湧き出す魔物に埋もれていく。リュシアの魔法も、アマネの刀も、押し返すには力が足りなかった。
「まだ足りねぇ……!」ジークが唇を噛む。「これじゃ押し切られる……!」
「勇者と聖女だけでは……無力だ」
瘴気の奥で、ネビロスが仮面の下から笑みを漏らした。その指先の動きに呼応し、依代化した亜人たちが再び突進してくる。血と瘴気が入り混じり、地獄のような光景が広がった。
「……!」アマネは刀を構え、背筋を伸ばした。彼女の頬を汗が流れる。恐怖も迷いもある。だが――背後には仲間がいた。
「アマネ……」リュシアが小さく呼ぶ。その瞳は震えていなかった。彼女もまた、《星映杖》を固く握りしめている。
「俺たちが一緒なら……!」アルトが叫ぶ。声はかすれても、意志は折れていなかった。
「諦めないっ……!」ミナが爆雷を構え、足元の魔法陣を輝かせる。「どんな相手でも、私たちで止めるんだから!」
「……神よ」カイルが胸に手を当て、低く祈りを紡ぐ。「どうか、彼らの心に光を……!」
◇
その瞬間だった。六人の足元に、星の粒子がふわりと浮かんだ。刀の輝きと杖の光が重なり、アルトの剣、ジークの大剣、ミナの魔導器、カイルの祈りと共鳴する。六つの光が溶け合い、谷を包み込んだ。
「なっ……これは……!」ネビロスの声が揺らぐ。
アマネが叫ぶ。「今だ――!」
六人の想いが奔流となり、白い光が夜明けのように広がる。刀と杖を中心に、剣が、祈りが、爆雷が、ひとつの光に束ねられて――放たれた。
「黎明衝波……!」リュシアの声と共に、光が走る。
谷を覆う瘴気が一瞬で吹き飛び、依代化した亜人の瘴気が断たれる。呻き声を上げ、彼らは膝をつき、正気の瞳を取り戻していった。魔物の群れも光に呑まれ、灰となって崩れ落ちる。
「ぐっ……!」ネビロスの仮面が砕け、血が口元から滴る。「これほどとは……!」
だが、彼はなお笑っていた。「ふふ……だが、これで終わりと思うな……!」
影のように身体を崩し、ネビロスは瘴気の奥へと退いた。残されたのは、荒れ果てた谷と、地に膝をつく六人の姿だった。
◇
「……やった、のか?」ジークが息を切らし、剣を杖代わりに地面へ突き立てる。
「押し返した……!」アルトの声が震える。だが、その顔には確かな笑みがあった。
アマネは刀を下ろし、仲間たちを見渡す。 《星映刀》は淡く光り続けていた。彼女の胸にも、確信が芽生えていた。
「私たちなら……できる」
その言葉に、仲間たちはうなずいた。彼らが共に歩む限り、どんな闇も斬り払える――そう信じられる夜明けが、確かにそこにあった。
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