混沌の戦場—ネビロスの影
荒れ果てたルナリアの大地。封印地へ続く谷間に、瘴気が濃く漂っていた。
アマネたちが足を踏み入れた瞬間、地を割って魔物が這い出す。牙を剥く獣、羽音を響かせる異形……その群れの中に、亜人の姿が混じっていた。
「……っ!」リュシアが杖を握りしめる。「あれは……魔物じゃない!」
狼耳を持つ青年、狐人の少女。顔には苦悶が浮かび、しかし瞳は濁り、瘴気に操られている。肉体は半ば魔物へと変じ、鋭い爪や角が突き出していた。
「依代化した亜人……!」カイルの声が震える。「見分けが……つかない……」
◇
「どっちだ!?」
ジークが剣を振るい、迫る影を弾く。だが次の瞬間、彼の刃は人の肩をかすめ、赤い血が飛んだ。
「くそっ……! 俺の剣じゃ、瘴気の糸は斬れねえのか!」
「ジーク!」アルトが叫ぶ。「退け! 無闇に斬れば……!」
だが敵は容赦なく襲い来る。魔物と依代化の亜人が混じり合い、混沌は極まった。
◇
「ふふ……実に美しい光景だ」
谷間の奥、瘴気の渦の中から、一人の影が現れる。
長衣をまとい、仮面の奥から笑みを漏らす男。四天王のひとり――ネビロス・ヴェイル。
「欲望に抗おうと足掻く者……欲望に飲まれ、糸に絡まる者……どちらもまた、我らの糧にすぎぬ」
彼の指が軽く振られると、苦悶の亜人たちが呻き声を上げ、一斉に突進してきた。
◇
「……!」リュシアの目が揺れる。「救いたい……でも、こんな数……!」
カイルが歯を食いしばる。「術式はまだ未完成だ……間に合わない……」
アマネは刀を構えた。 《星映刀》が淡い光を放つ。だが彼女の瞳には迷いがあった。
「斬るしかない……でも、それじゃあ……」
◇
「甘いな、勇者」
ネビロスの声が谷に響き渡る。「お前がいかに澄んだ心を持とうと……その手がお前の希望を斬り裂く。やがてお前自身が絶望の依代となろう」
嘲笑が瘴気と混ざり、戦場を覆った。だが、アマネはゆっくりと息を吐く。
「……そんな未来、私が斬り開く」
《星映刀》が、星の粒子を散らしながら閃いた。
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