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共鳴—未来を射抜く矢

峡谷を覆っていた瘴気はなお濃く、大司教の杖から溢れ出す闇が地を揺らしていた。

「まだ抗うか……愚かなる者ども!」

大司教の叫びは狂気に染まり、黒の奔流が仲間たちを飲み込もうと広がっていく。

「くっ……!」

ランドルフが剣で受け止め、膝をつきながらも仲間を守る。

「これ以上は……耐えきれねえ!」

クラリスが必死に防御の陣を張るが、光の膜は軋みを上げた。

その時――。

「……終わらせよう」

フローラが一歩前に出た。

竜の紋様が肩から背へと広がり、琥珀の瞳が金色に輝く。

竜族の血が解き放たれ、威圧感が戦場全体を支配した。

「フローラ様!」

レナが驚きの声を上げる。

「大丈夫……でも、私ひとりでは足りない」

フローラは振り返り、エリスティアを見つめた。

「エリスティア――一緒に!」

エリスティアは深く頷く。

弓を掲げ、精霊の囁きに耳を澄ませる。

〈……迷わぬ心が、矢に宿る〉

矢が光を帯び、次第に白銀から金へと変わっていく。

それはただの破壊ではない――心の奥底に届く「祈り」の光。

「……これが、私に託された道」

フローラの竜炎が弓を包み、矢はさらに強烈な輝きを放った。

「来い、大司教!」

エリスティアが弓を引き絞る。

大司教は慌てて黒の壁を築く。

「誰も救えぬ……! 人は必ず闇に堕ちるのだ!」

「違う!」

エリスティアの声が響く。

「人は――支え合えば、必ず立ち上がれる!」

放たれた矢は、竜炎と精霊の力を帯び、流星のごとく走った。

〈黎明衝波〉――。

光は闇を貫き、大司教の胸を撃ち抜いた。

「ぐっ……あ……!」

大司教の身体を覆っていた瘴気が剥がれ落ちていく。

その奥から現れたのは、憔悴した一人の壮年の姿だった。

虚ろな瞳が震え、かすかに涙が滲む。

「私は……救えなかった……ただ……救われたかっただけなのに……」

エリスティアは弓を下ろし、静かに祈りを捧げた。

「……もう苦しまなくていい。あなたの魂は、光に帰る」

大司教の姿は淡い光となり、風に溶けて消えていった。

戦場に静寂が訪れる。

仲間たちは武器を下ろし、ただ光の残滓を見守った。

「……終わったのか?」

ランドルフが息を吐き、剣を肩に担ぐ。

クラリスが小さく笑みを浮かべる。

「ええ……けれど、これは始まりでもあるわ」

ユリウスが頷く。

「依代も、魔も……ただ斬るだけでは終わらない。浄化――魂を救う。それが未来を切り開く鍵かもしれない」

フローラは崩れ落ちそうになりながらも、民を見渡した。

「……立てるか?」

「ええ……でも、しばらくは休んでください!」

リディアが支えに入り、仲間たちも頷く。

「フローラ様が帰る場所を……私たちで守ります」

エリスティアは強く誓うように言った。

フローラはその声に微笑み、目を閉じた。

こうして、大司教の拠点は崩壊し、フローラは自由を取り戻した。

だが、戦いはまだ続いている。

魔王封印の地で待ち受ける脅威――そして、浄化という新たな可能性。

未来を射抜く矢は、今まさに放たれたばかりだった。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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