光の矢、竜の咆哮
峡谷を覆う瘴気が、黒い嵐のように渦巻いていた。
その中心で、大司教が杖を掲げ、狂気の笑みを浮かべる。
「見よ! これこそが真の救済だ! 弱き魂は魔に抱かれて生まれ変わる!」
「救済だと……?」
フローラの琥珀の瞳が怒りに燃える。
「それはただの蹂躙! 私たちの民を弄ぶな!」
彼女の背に、竜の紋様が光を放つ。
血が滾り、息が荒くなるのも構わず、竜の咆哮を解き放った。
轟音と共に炎が奔流となり、瘴気を焼き払う。
一瞬だけ、夜空に月光が戻った。
◇
「フローラ様が開いた道を無駄にはしない!」
クラリスが剣を掲げ、亜人たちを鼓舞する。
「突撃!」
ランドルフが先陣を切り、巨体を生かした斬撃で魔物を弾き飛ばす。
「行くぞォッ!」
ユウマとレナが後方で魔法を放ち、仲間を援護する。
炎と光の矢が飛び交い、戦場が一瞬ごとに揺らいだ。
◇
「精霊よ……力を!」
エリスティアが祈るように弓を引く。
矢が放たれ、白銀の光となって宙を裂いた。
〈精霊矢〉――命中した瞬間、瘴気が祓われ、魔物の瞳が澄んで消えていく。
「次だ……!」
彼女は矢を重ね、今度は群れに狙いを定めた。
「〈星環射〉!」
放たれた矢は空で弧を描き、光の輪となって拡散。
複数の黒糸を一斉に断ち切り、依代の兆候を見せた兵を救った。
「……っ」
兵士が膝をつきながらも涙を流し、エリスティアを仰ぎ見た。
「ありがとう……まだ、戦える……!」
その声が仲間たちを奮い立たせる。
◇
「馬鹿な……人の意志が、瘴気を拒むだと?」
大司教の顔に初めて動揺が走る。
「お前が見落としているのはそこだ」
ユリウスが冷静に言葉を投げる。
「人はただ弱いだけじゃない。支え合い、選び取る力を持っている」
「戯言を!」
大司教が杖を振り下ろし、漆黒の瘴気が奔流となって迫る。
◇
「……退かない!」
エリスティアが弓を握り締める。
その瞬間、背後からフローラの声が重なった。
「一緒に!」
竜の咆哮と、精霊の矢。
二つの力が交わり、巨大な光の奔流となって瘴気を切り裂いた。
轟音と共に、峡谷の闇が一気に吹き飛んでいく。
大司教の黒衣が裂け、顔に焦りが滲んだ。
「馬鹿な……これほどの光……!」
◇
エリスティアは弓を下ろし、息を荒げながらも瞳を輝かせた。
「まだ……終わってない。ここで、決着をつける!」
フローラが頷く。
「私たちが民の旗になる。――必ず!」
二人の背に、仲間たちの声が続いた。
クラリス、ユリウス、ランドルフ、そして数多の亜人たち。
その光景は、まるで「共生の未来」そのものだった。
◇
闇と光が再びぶつかり合う。
峡谷は戦場と化し――
いよいよ、大司教との決戦の幕が上がった。
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