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大司教の牙—瘴気の峡谷

峡谷は黒い靄に覆われ、月の光さえ届かない。

谷底からは呻き声のような風が吹き上がり、腐臭が鼻を突いた。

「……酷いな」

ランドルフが眉をひそめ、大剣を肩に担ぐ。

「まるで、生き物そのものが腐ってるみたいだ」

ユリウスが冷静に分析する。

「瘴気を増幅する祭具を設置しているはずだ。それを壊さねば、いくらでも魔物が湧き出る」

「つまり、私たちはそこを叩けばいいのね」

クラリスの碧眼が鋭く光る。

その時、谷底から重い足音が響いた。

黒衣を纏った大司教アドリアン・ド・モンフォールが、瘴気をまとった群れを従えて姿を現す。

「ほう……王妃とその従者どもか」

声は冷ややかで、地を這うように響く。

「だが遅かった。この地はすでに“魔王の庭”と化した」

「大司教……!」

フローラが低く唸り、竜の血が背に浮かぶ。

「その言葉、吐いたことを後悔させてあげる」

エリスティアが弓を構え、精霊の光を矢に宿す。

「来い。哀れな抵抗者どもよ!」

大司教が瘴気の杖を振り下ろした瞬間、谷が震えた。

異形の魔物たちが群れを成し、地を揺らしながら突進してくる。

「全員構えろ!」

クラリスの指揮が飛ぶ。

ランドルフが咆哮を上げ、前線で獣人戦士たちと共に受け止める。

ユウマとレナが後衛を守り、癒しと火力で仲間を支える。

「精霊矢!」

エリスティアの矢が魔物の瘴気を祓い、仲間の刃がそこを突き破る。

「フローラ様!」

リディアが叫ぶと同時に、フローラの咆哮が谷を震わせた。

炎が魔物を焼き払い、その隙をクラリスが切り裂く。

だが、大司教は嗤っていた。

「ふはは……救うだと? 愚か者め!」

彼の杖から黒い糸が伸び、倒れかけた兵士の体を絡め取る。

その目が濁り、依代化の兆候が浮かぶ。

「……!」

エリスティアの胸が締め付けられる。

「やめて! 彼らは、まだ――!」

矢を放つ。

〈精霊矢〉が黒糸を断ち切り、兵士の目が一瞬だけ澄んだ。

「……ありがとう……」

その声を残し、兵士は力尽きて崩れ落ちた。

「……救えるのに、間に合わなかった」

エリスティアの手が震える。

フローラが肩に手を置いた。

「違うわ。あなたは確かに救った。私たちは無駄にしない」

その言葉に、エリスティアの瞳が再び強く燃え上がる。

「……必ず、この手で終わらせる!」

大司教が再び杖を掲げ、瘴気が渦巻く。

峡谷そのものが揺れ、黒い渦が天を覆った。

「ここからが本番だ!」

戦場が、闇と光の奔流に包まれていく――。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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