邂逅—弓と竜の誓い
森を覆う瘴気の中、魔物たちが牙を剥いて押し寄せてくる。
黒毛の狼、棘を生やした猪、異形に歪んだ鳥――数は十を超え、赤い瞳が闇に揺れた。
「フィオナ、下がって!」
リディアが叫び、剣を振るう。鋭い一閃が狼を裂き、血煙が散った。
だが数は減らない。
フローラは杖を握りしめ、肩の鱗を光らせる。
息は乱れていたが、その瞳には決意の炎が宿っていた。
「……私が道を切り拓く!」
彼女の背から竜の紋様が浮かび上がり、赤金の光が走った。
咆哮と共に、爆ぜるような熱波が群れを吹き飛ばす。
◇
その瞬間――
「――〈精霊矢〉!」
森の奥から、白光の矢が飛来し、魔物の瘴気を切り裂いた。
狼の眼が澄み、一瞬だけ苦悶に揺らいでから倒れる。
「この光は……!」
フローラが目を見開いた。
月明かりの中、弓を構える少女の姿が現れた。
銀髪を揺らし、紅の瞳に力強い光を宿す――エリスティア。
彼女の背後には、クラリスとユリウス、ランドルフ、レナ、ユウマ、そして亜人の戦士たち。
一糸乱れぬ布陣で森を駆け抜けてきた。
「フローラ様!」
エリスティアの声が、夜を震わせる。
フローラの瞳に、熱いものが込み上げた。
「……エリスティア!」
◇
戦場は一変した。
ランドルフが雄叫びを上げ、大剣で猪を叩き伏せる。
「おらぁ! 獣の群れごとき、まとめて相手してやる!」
ユウマとレナは背後を固め、治癒と援護魔法で陣を支える。
クラリスは鋭い指揮で戦線をまとめ、ユリウスが即座に次の布陣を指示した。
「敵の中心は瘴気の杭! そこを叩けば群れは散る!」
「了解!」
エリスティアが弓を引き絞り、矢を放つ。
精霊の光が杭を貫き、魔物たちの動きが一瞬鈍った。
フローラはその隙に、竜の血を呼び覚ます。
紅蓮の炎が舞い、残る魔物を焼き払った。
◇
静寂が戻る。
瘴気の杭は崩れ、魔物の群れは霧散していった。
フローラは肩で息をしながら、駆け寄ってきたエリスティアを見つめた。
「……あなたが、ここまで来てくれたのね」
エリスティアは深く頷き、跪いた。
「フローラ様。私は……民の代表としてここに立っています。
でも、私にとってあなたは、それ以上の存在です」
紅の瞳に涙が滲んでいた。
フローラはその手を取り、強く握った。
「もう、私たちは一人じゃない。あなたと共に、この国を取り戻す」
二人の瞳が交わり、月光の下で誓いが結ばれる。
その姿は、絶望の闇に差し込む灯火のようだった。
◇
クラリスが微笑みながら声を上げた。
「誓いは果たされたわ。さあ、次は大司教を討つ番よ」
ユリウスが冷静に頷き、地図を広げる。
「拠点はこの先の峡谷だ。奴らが瘴気を増幅させている源……そこを叩けば、ルナリアの民は再び息をつける」
エリスティアとフローラは互いに手を握ったまま、前を見据えた。
「進みましょう」
「ええ――必ず勝つ」
月下の誓いは、国を照らす未来への第一歩となった。
お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。
面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。