表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

302/471

脱出—月下の咆哮

月明かりが差し込む石の回廊。

かすかな靴音が、誰もいないはずの城に響いていた。

フローラは黒い外套を纏い、フィオナとリディア、そしてレオネルに伴われて進む。

石壁の影に潜みながら、息を殺して進む度に、鼓動が早まっていった。

「……見張り、交代の隙を狙ったとはいえ、時間は少ない」

レオネルが囁く。

「大丈夫。月が、私たちを導いてくれるわ」

フローラは囁き返した。

だが、その手は微かに震えていた。

地下への階段を降りると、冷気が押し寄せた。

苔むした石の壁、湿った空気――誰も知らない古の通路。

「本当に……ここを抜ければ」

フィオナが不安げに呟く。

レオネルは頷いた。

「王家に伝わる退路です。滅多に使われませんが……今はこれしか」

だが、曲がり角を抜けた瞬間――

鎧の音が響いた。

「誰だ!」

火のついた松明が持ち込まれ、兵士たちが通路を塞いでいた。

通報が遅れていなかったのだ。

「……!」

リディアが剣を抜き、フィオナが背を庇う。

フローラは一歩前に出た。

琥珀の瞳が鋭く輝き、背中の鱗が淡く光を帯びる。

「退きなさい」

声は冷たく、威厳を帯びていた。

兵士たちの足が一瞬止まる――が、すぐに刃が向けられる。

「王の言葉を守るのが、我らの任務だ!」

その叫びに、フローラは目を閉じた。

次の瞬間――彼女の全身から竜の咆哮がほとばしる。

轟音と共に、赤金の光が通路を埋め尽くした。

衝撃波が兵士たちを吹き飛ばし、石壁さえも軋んだ。

沈黙が訪れる。

煙の向こうに、倒れ伏した兵士たちの姿。

「……っ」

フローラは息を荒げ、膝をつきそうになる。

「フローラ様!」

フィオナが駆け寄り、肩を支えた。

リディアは険しい目で言う。

「これが……あなたの代償ね。力を振るうたびに、体を蝕む」

フローラは微笑んだ。

「それでも……進むしかないわ」

彼女は立ち上がり、再び歩を進めた。

琥珀の瞳に宿る光は、揺らいではいなかった。

ようやく通路を抜けると、月光が夜の大地を照らしていた。

風が頬を打ち、自由の匂いが広がる。

「外だ……!」

レオネルが安堵の息を漏らした、その時。

森の奥から、低い唸り声が響いた。

影がうごめき、赤い眼光がいくつも灯る。

魔物の群れが、すでに包囲していた。

「……抜かりないな」

リディアが剣を構えた。

フィオナは震えながらも、フローラの側に立った。

フローラは外套を脱ぎ捨て、琥珀の瞳で群れを睨みつけた。

竜と獣人の混血の血が、再び熱を帯びる。

「進むのよ。ここで倒れるわけにはいかない」

月下に響く咆哮。

だが、その声の先には――彼女を待つ仲間の影が、確かに近づいていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ