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瘴気の杭—奔流を断て

轟音とともに、黒き奔流が荒野を覆った。

魔物の群れは、数にして百を超える。狼が牙をむき、巨鳥が空を裂き、獣の唸りが響き渡る。

それでも――誰一人として怯まなかった。

「……来るぞ!」

ランドルフが吠えると同時に、獣人の兵が雄叫びを上げて前に並ぶ。

その背後でクラリスが声を張り上げる。

「前衛は横一列に! 自警団の者はランドルフ殿と共に! 魔法職は後衛で援護を!」

指示は迷いなく飛び、亜人も人間も即座に応じた。

指揮の統率力は、まさに学園時代から「奏の会」を導いてきた彼女そのものだった。

「ユリウス!」

クラリスの声に、金髪の青年が前へ出る。

「杭の座標を割り出した。北東に三本、東に二本、南に一本……全部で六だ」

ユリウスの瞳は鋭く光り、細かい地図を素早く描き出す。

「瘴気の流れが強いのは北東。あそこが中心核だろう。そこを壊せば全体が崩れるはずだ」

「……了解です」

エリスティアが弓を構える。

光を帯びた弦が震え、精霊の囁きが彼女の耳を打った。

(導け……我が矢よ。道を照らせ)

放たれた一矢は夜空を切り裂き、北東の瘴気杭を撃ち抜いた。

瞬間、杭が爆ぜ、魔物の列がわずかに乱れる。

「今だ! 道が開いた!」

ランドルフが吠え、獣人兵たちが突撃する。

乱戦の中、クラリスは凛とした声を響かせる。

「後衛、陣を崩さないで! 負傷者は即座に下がらせて!」

レナが双剣を翻しながら、仲間の隙を守る。

「任せて! この程度じゃまだ倒れないわ!」

ユウマも庵仕込みの体術で魔物を次々と叩き伏せる。

「守るのは得意だからな……誰も死なせない!」

彼らの奮闘が、戦線を繋ぎ止めていた。

だが――杭はまだ残っている。

北東の一つを壊しただけでは、群れの勢いは止まらない。

「エリスティア!」

クラリスが振り返り、叫ぶ。

「次をお願いしますわ!」

「はい……!」

彼女は再び弓を引き絞った。

瘴気に濁る空気を裂き、光の矢が放たれる。

矢は二本の杭を貫き、光の環となって弾けた。

星環射――光の輪が広がり、魔の糸を断ち切っていく。

魔物の動きが一斉に鈍り、戦場の空気が変わった。

「……効いてる!」

ユリウスが驚きの声を上げる。

「エリスティアの矢は、杭だけでなく“魔を操る糸”ごと断ち切っている!」

その瞬間、彼女の胸に確信が宿った。

(これは――救える力……!)

フローラを敬愛する心が、弓を通して精霊に届いている。

その願いが矢となり、瘴気を払っていく。

「もう迷いません……! フローラ様を、この手で――」

エリスティアは最後の杭へと狙いを定めた。

仲間たちの声、武器の音、精霊の囁き――すべてが一つに重なる。

「――断てッ!」

放たれた矢が杭を撃ち抜いた瞬間、黒い奔流が霧散し、魔物たちは糸を失った操り人形のように地へ倒れ込んだ。

戦場に静寂が訪れる。

荒野を覆っていた瘴気が晴れ、冷たい風が頬を撫でた。

クラリスが微笑みを浮かべ、仲間たちを見渡す。

「……よくやりましたわ。これで道は開けました」

ユリウスが深く息を吐き、眼鏡を外した。

「大司教の本拠は……この先だ。逃がすわけにはいかない」

エリスティアは弓を握りしめたまま、空を仰いだ。

(フローラ様――もうすぐ、お迎えに参ります)

彼女の瞳は、強い光で燃えていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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