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迫りくる群れ—人工の奔流

荒野を渡る風が、戦いの余韻を吹き流していく。

地に横たわる魔熊の巨体は、すでに瘴気を失い、ただの肉塊と化していた。

エリスティアは弓を握りしめたまま、肩で息をしながら前を見据える。

その横で、クラリスが冷静に仲間たちへと指示を飛ばしていた。

「負傷者は軽傷のみ……皆、よく耐えてくれました。けれど――休む暇はなさそうですわね」

クラリスの碧眼が、遠方の黒煙を捉えていた。

地平の彼方で、土煙が幾筋も上がり、地鳴りのような振動がこちらへ迫ってくる。

「……群れだ」

ユリウスが眉をひそめる。

「自然発生のスタンピードじゃない。動きが整然としすぎている」

彼の分析に、ランドルフが牙を剥く。

「つまり、誰かが仕組んだってことか。魔物を“兵器”みたいに使ってやがる」

エリスティアは弓を下ろし、深く息を吸った。

胸の奥に、冷たい予感が広がっていく。

――この流れの先に、フローラ様が。

「……瘴気の流れが不自然です。あの群れは、おそらく瘴気を囮に集められています」

彼女の声はわずかに震えていたが、その瞳は揺らがなかった。

クラリスがその肩に手を置き、静かに頷く。

「エリスティア。貴女の判断が正しいのなら――放置はできませんわ。王国の中枢まで踏み込まれれば、ルナリアの民は耐えられない」

「……はい。ここで止めなければ、フローラ様の居場所も危うくなる」

エリスティアは弓を握り直し、決意を込めた。

群れが近づくにつれ、その異様さが明らかになってきた。

狼型の魔物、獣型の魔物、鳥の魔物……種はばらばらなのに、まるで同じ意思に操られているかのように進軍してくる。

「やはり……」

ユリウスが眼鏡を押し上げ、冷静に言葉を続ける。

「群れを束ねているのは、地面に打ち込まれた“瘴気の杭”だ。あれが魔物を呼び寄せている……おそらく大司教アドリアン・ド・モンフォール派の術式だろう」

「なら、杭を壊せばいいんだな!」

ランドルフが拳を鳴らす。

「俺たちが突っ込んで杭を折る。その間、魔物は……」

「わたくしたちが食い止めますわ」

クラリスが毅然と答える。

「奏の会も庵の者も――皆で戦線を張れば、不可能ではないはず」

エリスティアは仲間たちのやり取りを聞きながら、心を静めた。

弓に宿る光が、彼女の鼓動と同調するかのように脈打っている。

(フローラ様……どうか、今はご無事で)

彼女の心の奥底に、強い願いが芽生える。

その願いが、仲間たちの決意と重なり合う。

ランドルフが剣を抜き、狼のように吠えた。

「よし、蹴散らしてやろうぜ! この群れを止めるんだ!」

「――はい!」

エリスティアも声を張り上げた。

次の瞬間、地平線の黒い奔流が、彼らの前へと押し寄せてきた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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