出立—二つの道
野営地の中央に置かれた大きな卓上地図を、カイルが指先でなぞった。
「ここが国境の無属地。魔王の封印痕がある地点だ。僕たち勇者隊は、このルートを通って調査に向かう」
彼の声は落ち着いていたが、その眼差しは鋭かった。
リュシアが隣で頷き、補足する。
「封印の揺らぎを確認し、宰相や教皇が潜んでいれば必ず止めなければならないわ」
◇
「そしてもう一方――」
カイルの視線がエリスティアに移る。
彼女は一歩前へ出て、弓を胸に抱いた。
「私たちはルナリア王城へ向かいます。フローラ様を必ず救い出す」
その言葉に、クラリスが優雅に頷いた。
「奏の会としても全力で支援します。アマネを導くように、フローラ様をも――」
「僕も一緒に」
ユリウスが声を重ねた。
彼の背筋は真っ直ぐに伸び、いつになく毅然としている。
「父の影に囚われるのは、もう終わりです。僕自身の意思で、仲間と歩む」
ランドルフやレナ、ユウマらも武具を鳴らし、短く気勢を上げた。
エリスティア部隊の覚悟は、すでに揺るぎないものとなっていた。
◇
その場で、ミナが小さな箱を取り出した。
「はい、これ忘れないでね」
掌に収まる黒い通信機。
魔力で声を伝える仕組みで、すでに六人とエリスティアが持っている。
「何かあったら、必ずこれでやり取りすること。特に……レオン殿下に変化があれば、即座に報告して」
彼女の声にはいつものおどけがなく、真剣な響きがあった。
「わかった。必ず守る」
アマネが受け取り、仲間全員を見渡す。
「離れていても、私たちは繋がってる。絶対に一人じゃない」
「ええ」
リュシアも柔らかく微笑み、手を重ねる。
「声が届く限り、心も届くわ」
エリスティアは新たな弓を握り、静かに宣言した。
「必ず、フローラ様を救い、戻ります。そして……この国を共に支えてみせます」
◇
出立の刻。
勇者隊は北東の荒野へ、エリスティア隊は城塞のある西方へ。
焚火の煙が二筋に分かれるように、彼らの背中もそれぞれの道へと歩み出した。
その道は再び交わるのか、あるいは――。
だが今はただ、各々の胸に刻んだ誓いが、確かな光となっていた。
お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。
面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。




