荒地の試射—仲間の証明
東の空がわずかに白み始めた頃、三人は野営地から少し離れた荒地へと足を運んでいた。
草木もほとんど生えない、岩と砂利の広がる地帯。魔物の影もなく、試射にはうってつけの場所だった。
「さあ、試してみよっか」
アマネが軽く肩を回しながら振り返る。
背には 《星映刀》。だが彼女の視線は、エリスティアの手にある新たな弓へと注がれていた。
「……はい」
エリスティアは深く息を吸い込み、弓を握り直した。
木肌はすでに光を帯び、まるで生きているかのように脈動している。
「私が結界を張るわ。安心して撃ちなさい」
リュシアが杖を掲げると、淡い光の半球が周囲を包み込んだ。
柔らかな光律聖陣。その中心で、エリスティアは弦を引き絞る。
◇
「まずは……」
彼女の囁きに応じるように、矢が形を成した。
炎でも氷でもない、精霊の澄んだ光そのもの――。
「――精霊矢!」
放たれた矢は直線を走り、遠くの岩を貫いた瞬間、白い光の波紋が広がった。
重く淀んでいた空気が一瞬、清らかに澄み渡る。
「……すごい」
リュシアが思わず呟く。
アマネも目を細め、頷いた。
「瘴気を祓うだけじゃない。心にまで届く光だね」
エリスティアは胸に手を当て、小さく息を吐いた。
「確かに感じます……精霊が、私の願いを矢に乗せてくれている」
◇
続いて、彼女はもう一本矢を番える。
今度は三本の光が同時に形を取り、弦を離れると輪を描くように回転した。
「――星環射!」
三つの矢は空中で光の環に変わり、複数の方向へ伸びる見えない糸を断ち切るように飛び散った。
荒地に漂っていた薄い瘴気の残滓が、まるで霧が晴れるように消えていく。
「複数を……同時に」
リュシアが息を呑む。
アマネは満足そうに笑った。
「これなら小規模の依代化くらい、一人で止められる」
エリスティアは矢を収め、そっと弓を見下ろした。
「……フローラ様を救うための力。精霊が、本当に私に託してくださった」
◇
最後に、三人は互いに目を合わせる。
リュシアが杖を構え、アマネが刀を抜き、エリスティアが弦を引いた。
「じゃあ、私たちも合わせてみようか」
アマネの声に、二人が頷く。
三つの光が同時に解き放たれ、空中で交わった瞬間、まばゆい奔流が荒地全体を照らした。
「――黎明衝波!」
夜の名残を切り裂くように、黄金の光が広がっていく。
岩は砕け、瘴気は浄化され、大地に新しい朝が訪れたかのようだった。
◇
光が収まると、三人はしばし立ち尽くしていた。
やがてアマネが刀を収め、にっと笑う。
「これなら安心して任せられる」
「ええ。あなたなら……フローラを守れるわ」
リュシアの言葉に、エリスティアの瞳が揺れる。
彼女は弓を胸に抱き、深く頷いた。
「……必ず、成し遂げてみせます」
荒地に差し込む朝日が、三人の影を長く伸ばしていく。
新たな力を携え、それぞれの道を進む時が近づいていた。
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