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精霊の声—弓の昇華

夜風が冷たく吹き抜け、野営地の焚火が小さく揺れた。

ルナリアの都へ向かう前の準備は静かに進んでいたが、エリスティアの胸中はざわめきを抑えられなかった。

膝に抱いたのは、幼い頃から手にしてきた一本の弓。

木肌は何度も手で磨かれ、指先に馴染む感触がある。

だが――今から挑む戦いの前では、あまりに頼りなく思えた。

「……フローラ様」

声に出すと、胸が熱くなる。

幽閉され、いまだ救えぬ彼女。その姿を想うだけで、矢を番える指が震えた。

「エリスティア」

背後から声がかかり、振り向くと、焚火の光に照らされた二つの影が立っていた。

アマネとリュシア。

「準備を手伝うよ」

アマネは微笑み、刀を背に掛けたまま近づいてきた。

その眼差しは戦士のものでもあり、同じ仲間を案じる少女のものでもあった。

「あなた一人の戦いじゃないわ」

リュシアも続く。杖の先端に淡い光を灯しながら、柔らかな声をかける。

「祈りは、一人より二人、三人で紡ぐ方が強い。……わたしたちは、あなたの隣にいる」

エリスティアは目を瞬かせた。

勇者と聖女――その名は誰もが憧れ、頼る象徴。

けれど、今の二人はただ彼女を支えようとする仲間でしかなかった。

「……ありがとう」

かすれた声が、ようやく唇から零れる。

その時だった。

風に乗って、微かな囁きが響いた。

――問う。汝の願いは何か。

焚火が揺れ、夜空の星が瞬きを増す。

三人の間に、透明な光が広がっていく。

エリスティアの胸に、鮮烈な想いが溢れた。

「私は……フローラ様を守りたい。この身を賭しても……あの方の未来を」

その言葉に応えるように、弓が淡く光を帯びる。

木肌が透き通り、古より宿る精霊の声が脈打つように響いた。

――汝の祈り、勇者の剣と聖女の杖に呼応す。

――ここに、新たな器を与えん。

「……!」

弓が震え、眩い光が溢れ出す。

アマネの刀から星粒が舞い、リュシアの杖から聖光が流れ込み、三つの力が絡み合った。

やがて光が収まり、エリスティアの手には新たな弓が残されていた。

弦は星光を編んだように煌めき、矢を番える前から清らかな力が滲み出している。

「これが……」

「精霊が応えたんだね」

アマネが頷く。

「あなたの願いが、本物だったから」

リュシアが微笑む。

エリスティアは弓を抱きしめ、静かに息を吐いた。

勇者でも、聖女でもない。

けれど――仲間として、自分にしかできない役割がある。

「……必ず、フローラ様を救ってみせます」

その誓いは、夜空へと響き、星々が応えるように瞬いた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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