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光の洞窟—救済と隔離

ルナリアとの国境近く。

難民の列は延々と続き、夜を迎えても止むことはなかった。

寒風が吹き抜ける野営地では、焚き火の明かりの下で子どもが泣き、母が寄り添い、兵士とギルド員が秩序を保つために声を張り上げていた。

その時――。

「……やめろ! 近づくな!」

悲鳴が上がった。列の中で一人の獣人青年が膝をつき、全身を震わせていた。

眼が赤黒く濁り、呼吸は荒く、皮膚に黒い紋様が浮かび上がる。

「依代化……!」

周囲がざわめき、恐怖に後ずさる。

カイルはすぐに腰の袋から護符を取り出した。

羊皮紙に描かれた簡易術式。リュシアの祈りで完成した、まだ試作段階のもの。

青年の胸に護符を当てる。

一瞬、白光が走るが――すぐに光は乱れ、黒い亀裂が走った。

「……兆候ありだ」

カイルの声は冷静だったが、周囲には衝撃が走る。

「じゃあ……やっぱり排除を……!」

「近づくな!魔になる前に斬れ!」

兵士や民の声が錯綜する。青年は苦しみ、呻き声を上げた。

その時、アマネが一歩前へ出た。

刀を地面に突き立てる。

「――星護結界」

光が大地に広がり、半球状の結界が青年を包み込む。

続けてリュシアが杖を掲げる。

「光律聖陣、展開」

祈りの声とともに、結界の内部に聖なる陣が描かれた。

その空間は清浄な光で満たされ、まるで洞窟のように外界から切り離されていく。

「ここなら……」

カイルが頷いた。

「隔離と安寧、両立できる」

光の洞窟の中で、青年は荒い息を繰り返していた。

だが、祈りと光に包まれるうち、紋様の濁りがわずかに薄れていく。

「……俺は……まだ……」

掠れた声が漏れた。

リュシアはそっと杖を掲げ、声を重ねる。

「あなたを拒む者はいない。心を澄ませれば、必ず帰る場所がある」

青年の震えが和らぎ、瞳にわずかな琥珀の色が戻った。

外で見守っていた民衆から、安堵の吐息が漏れる。

恐怖と拒絶が渦巻いていた空気に、希望の光が差し込んだ。

「……護符で判別し、光の洞窟で隔離する。これなら――」

カイルは護符を掲げながら言った。

「救済と防衛を、同時に制度化できる」

アマネは刀を抜き取り、結界を解いた。

リュシアの光も静かに収束する。

青年は仲間に支えられ、涙をこぼしながら礼を言った。

その夜。

焚き火の周囲で、民は互いに食料を分け合い、子どもたちの笑い声がかすかに戻った。

「これで、皆を受け入れられる……」

カイルは護符を見つめ、拳を握る。

だが同時に理解していた。

「……大量に依代化が起これば、救済は追いつかない。その時は――斬るしかない」

リュシアは横顔を見つめ、静かに頷いた。

「でも、今日確かめられたわ。救える命がある限り、私たちは諦めない」

二人の言葉は焚き火の煙に溶け、星空へと昇っていった。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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