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市場に灯る笑顔

朝日が昇ると同時に、トワイライトの広場に木の台が並べられた。

粗末な板に布を張っただけの簡易屋台。けれど、その一つひとつに期待が詰まっている。

「よし、こっちは魚だな。氷が足りない……」

慌ただしく帳簿を抱える少女――ミナ。

汗をにじませながら走り回り、荷車を指示しては紙に数字を書き込んでいく。

「ミナ、本当に全部把握してるの?」

横から軽やかな声がかかる。

赤茶の三つ編みを揺らすセリーヌが、にこりと笑って手伝い始めた。

「もちろん! 昨日の入荷は麦五十袋、干し肉三十樽、魚は川からの持ち込み……」

「待って、それ本気で暗記してるの?」

「ふふん、私はギルドの裏方ですから!」

胸を張るミナに、周囲の商人や難民の人々が目を丸くした。

「でもね、数字だけじゃなくて“顔”も大事よ」

セリーヌが広場を見渡す。

「ほら、あそこの子ども。飴を見てるけど、お金がないみたい」

ミナが気づき、すぐに駆け寄る。

「大丈夫、今日は開市記念だから、おまけだよ」

小袋から取り出した飴を差し出すと、子どもの顔がぱっと明るくなる。

その笑顔を見て、ミナは胸が温かくなった。

(数字も大切だけど……こういう一瞬も、街を支える力なんだ)

昼には市場が賑わい、人と人が言葉を交わす。

「値段はもう少し安くできないか?」

「こっちは人手が足りないんだ!」

庶民と難民が押し合いになりかけたとき、セリーヌが前に出た。

「少し待って。こちらで帳簿を引き直すわ。ミナ!」

「はい!」

二人は即座に計算を始め、在庫と需要を照らし合わせる。

やがてセリーヌが微笑んだ。

「じゃあ、麦を少し分ける代わりに、あなたの村の干し肉を回してちょうだい」

ミナが追加で配分を記録する。

衝突しかけていた人々は顔を見合わせ、やがて小さく頷いた。

夕方、市場は香辛料や果物の香りで満ち、笑い声があちこちで響いていた。

ミナは荷車の影に腰を下ろし、額の汗を拭う。

「お疲れさま」

セリーヌが冷えた水を差し出した。

「……ありがとう。裏方だから、目立たないのが当たり前だと思ってたけど……」

「今日は、皆がちゃんと見てたわよ」

市場のあちこちで、商人や子どもがミナに手を振っていた。

胸がじんわりと熱くなる。

(支えるだけじゃない。私だって、この街を動かす一人なんだ……!)

セリーヌが肩を軽く叩き、にやりと笑った。

「ね、トワイライトに欠かせないでしょ? 私たち、最強のコンビよ」

ミナも笑い返す。

「うん、裏方だけじゃなくて――これからも、一緒に前に出ていこう!」

市場に灯った笑顔は、夕暮れまで消えることはなかった。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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