市場に灯る笑顔
朝日が昇ると同時に、トワイライトの広場に木の台が並べられた。
粗末な板に布を張っただけの簡易屋台。けれど、その一つひとつに期待が詰まっている。
「よし、こっちは魚だな。氷が足りない……」
慌ただしく帳簿を抱える少女――ミナ。
汗をにじませながら走り回り、荷車を指示しては紙に数字を書き込んでいく。
「ミナ、本当に全部把握してるの?」
横から軽やかな声がかかる。
赤茶の三つ編みを揺らすセリーヌが、にこりと笑って手伝い始めた。
「もちろん! 昨日の入荷は麦五十袋、干し肉三十樽、魚は川からの持ち込み……」
「待って、それ本気で暗記してるの?」
「ふふん、私はギルドの裏方ですから!」
胸を張るミナに、周囲の商人や難民の人々が目を丸くした。
◇
「でもね、数字だけじゃなくて“顔”も大事よ」
セリーヌが広場を見渡す。
「ほら、あそこの子ども。飴を見てるけど、お金がないみたい」
ミナが気づき、すぐに駆け寄る。
「大丈夫、今日は開市記念だから、おまけだよ」
小袋から取り出した飴を差し出すと、子どもの顔がぱっと明るくなる。
その笑顔を見て、ミナは胸が温かくなった。
(数字も大切だけど……こういう一瞬も、街を支える力なんだ)
◇
昼には市場が賑わい、人と人が言葉を交わす。
「値段はもう少し安くできないか?」
「こっちは人手が足りないんだ!」
庶民と難民が押し合いになりかけたとき、セリーヌが前に出た。
「少し待って。こちらで帳簿を引き直すわ。ミナ!」
「はい!」
二人は即座に計算を始め、在庫と需要を照らし合わせる。
やがてセリーヌが微笑んだ。
「じゃあ、麦を少し分ける代わりに、あなたの村の干し肉を回してちょうだい」
ミナが追加で配分を記録する。
衝突しかけていた人々は顔を見合わせ、やがて小さく頷いた。
◇
夕方、市場は香辛料や果物の香りで満ち、笑い声があちこちで響いていた。
ミナは荷車の影に腰を下ろし、額の汗を拭う。
「お疲れさま」
セリーヌが冷えた水を差し出した。
「……ありがとう。裏方だから、目立たないのが当たり前だと思ってたけど……」
「今日は、皆がちゃんと見てたわよ」
市場のあちこちで、商人や子どもがミナに手を振っていた。
胸がじんわりと熱くなる。
(支えるだけじゃない。私だって、この街を動かす一人なんだ……!)
セリーヌが肩を軽く叩き、にやりと笑った。
「ね、トワイライトに欠かせないでしょ? 私たち、最強のコンビよ」
ミナも笑い返す。
「うん、裏方だけじゃなくて――これからも、一緒に前に出ていこう!」
市場に灯った笑顔は、夕暮れまで消えることはなかった。
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