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奏の会—再び響く名

夕刻、トワイライトの広場には祭の余韻が漂っていた。

難民も市民も、そして亜人の子らも、今日から共に生きる街の名を得て胸を張っている。

その喧騒を割るように、馬車の音が近づいてきた。

漆黒に金の紋章を飾った紋章馬車。人々がざわめき、道を開ける。

「……あれは、公爵家の印章だ」

広場の中央に立つアマネが顔を上げた瞬間、扉が開く。

プラチナブロンドの髪を編み込み、碧眼を輝かせる令嬢が、ゆるやかに降り立った。

気品に包まれながらも、その眼差しは一人の少女を真っ直ぐに射抜いていた。

「――アマネ!」

声が響いた。

かつて学園で共に歩んだ日々が、その一声で蘇る。

「クラリスさん……!」

アマネの頬に驚きと喜びが広がる。駆け寄ろうとした瞬間、背後からもう一人、きっちりとした姿勢の青年が姿を現した。

「失礼を。クラリス嬢一人では、と父が許さなくてな」

金髪を整え、真面目な表情をしたユリウス。

以前の皮肉めいた少年の面影は消え、凛とした青年の輪郭があった。

「会いたかったわ、アマネ」

クラリスは迷いなくアマネの手を取り、指を絡めるように握る。

周囲の視線も意に介さず、その碧眼を細める。

「勇者だなんて肩書きはいらないの。私にとっては、あの頃からずっと大切な――アマネだから」

その言葉に、アマネの頬がかすかに赤く染まる。

隣で見ていたリュシアが苦笑し、アルトは少しむっとした顔をしたが、誰も止められない迫力がクラリスにはあった。

ユリウスはそんな二人を見守りながら、小さく息を整える。

「……俺も来たのは、父の命令からではない。宰相の影が消えた今、俺は俺の矜持で動く。奏の会の名のもとに」

その言葉に、広場にいた古い仲間たちがざわめく。

「奏の会」――学園時代にアマネを支えるために結成された小さな輪。

時を越え、再びここに響いた。

「街の名が決まったと聞いたわ。トワイライト……いい名ね」

クラリスが周囲の人々を見渡し、優雅に微笑む。

「共に暮らすには誤解も摩擦もあるでしょう。でも、光と影が混ざり合ってこそ、夕暮れは美しいの」

言葉は高潔でありながら、民の心にすっと届く柔らかさを持っていた。

「奏の会は不滅よ。アマネを支える輪は、ここでも生き続ける」

その宣言に、アマネは胸の奥が熱くなるのを覚えた。

勇者としてではなく、一人の“アマネ”として。

自分を信じてくれる存在が、再びそばに立っている――その確かさが、背を押した。

広場に集まる人々は、若き公爵家の面々の登場に驚きながらも、やがて拍手を送った。

共生街の未来はまだ揺らいでいる。だが、この一歩が確かに空気を変えていく。

アマネはクラリスとユリウスに頷き返す。

「ありがとう……ここから、また一緒に」

クラリスの碧眼が優しく揺れた。

「ええ、アマネ。いつだって、あなたの隣に」


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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