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街に名を—共生の誓い

朝の会議場。まだ仮設の板張りの建物だが、人間の代表も亜人の代表も集まっていた。

ランドルフが腕を組み、フェリナが鋭い目で座り、ジークとミナも顔を揃えている。

その中央に立ったのは、やはりカイルだった。

「昨日の広場で、私は“譲り合い”を訴えました。ですが、それを一過性の言葉で終わらせるつもりはありません」

人々の視線が注がれる。

カイルは深呼吸をひとつし、言葉を続けた。

「ここは避難所ではなく、新しい未来の縮図です。ならば、名を持たねばならない。――私たちが共に歩む街の名を」

会議場がざわめく。

「名前、か……」

「確かに、そうすれば形になる」

リュシアが静かに進み出る。

「名前は、人の心を繋ぐ力を持ちます。私たちが互いに支え合い、この街を守りたいと願うなら――その願いを込めるべきです」

しばし議論が交わされる。

「光の街ではどうだ」

「いや、亜人からすれば人間の信仰色が強すぎる」

「安息の街……いや、それも避難所の延長だ」

意見はまとまらない。だが、その混沌にこそ意味があった。

人と亜人が対等に言葉を交わす光景は、ほんの数日前には考えられなかったのだから。

カイルはやがて、炎のように揺れる議論の中で口を開いた。

「“黄昏トワイライト”はどうでしょう」

「黄昏……?」

「昼と夜、光と闇の境目にある時間。そこにはどちらの顔も映り、互いが混ざり合う。

人と亜人、立場や種を越えて、共に暮らすこの街にふさわしいと、私は思います」

リュシアが小さく頷き、言葉を添える。

「黄昏は終わりではなく、新しい始まりを告げる光でもあります。

だから――ここは“トワイライト”。新しい未来の灯火になる街です」

静寂の後、拍手が湧き起こった。

ランドルフが拳を叩きつけるように同意し、フェリナが微笑を浮かべて頷いた。

「いいわね。光に寄りすぎず、闇にも呑まれない。……バランスが取れている」

「トワイライト……!」

若者たちが口に出し、広場の外にまで響く。

こうして、共生街は名を得た。

まだ脆く、不安も大きい。

だが、“名を持つ”ことで、そこに息づく人々の心がひとつ結ばれたのだった。

会議場を出た後。

リュシアが隣で囁く。

「あなたが言葉を紡ぐ時、私は誇らしくなる。――でもね、それを一人で背負わないで。

私がいる。みんなもいる。今日みたいに」

カイルは照れたように目を逸らした。

「……ありがとう。君が隣にいるから、僕は言葉を言葉にできるんだ」

篝火の明かりが朝の陽光に消えていく。

トワイライト――その名が生まれた朝は、確かな希望を映していた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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