街に名を—共生の誓い
朝の会議場。まだ仮設の板張りの建物だが、人間の代表も亜人の代表も集まっていた。
ランドルフが腕を組み、フェリナが鋭い目で座り、ジークとミナも顔を揃えている。
その中央に立ったのは、やはりカイルだった。
「昨日の広場で、私は“譲り合い”を訴えました。ですが、それを一過性の言葉で終わらせるつもりはありません」
人々の視線が注がれる。
カイルは深呼吸をひとつし、言葉を続けた。
「ここは避難所ではなく、新しい未来の縮図です。ならば、名を持たねばならない。――私たちが共に歩む街の名を」
会議場がざわめく。
「名前、か……」
「確かに、そうすれば形になる」
リュシアが静かに進み出る。
「名前は、人の心を繋ぐ力を持ちます。私たちが互いに支え合い、この街を守りたいと願うなら――その願いを込めるべきです」
◇
しばし議論が交わされる。
「光の街ではどうだ」
「いや、亜人からすれば人間の信仰色が強すぎる」
「安息の街……いや、それも避難所の延長だ」
意見はまとまらない。だが、その混沌にこそ意味があった。
人と亜人が対等に言葉を交わす光景は、ほんの数日前には考えられなかったのだから。
カイルはやがて、炎のように揺れる議論の中で口を開いた。
「“黄昏”はどうでしょう」
「黄昏……?」
「昼と夜、光と闇の境目にある時間。そこにはどちらの顔も映り、互いが混ざり合う。
人と亜人、立場や種を越えて、共に暮らすこの街にふさわしいと、私は思います」
リュシアが小さく頷き、言葉を添える。
「黄昏は終わりではなく、新しい始まりを告げる光でもあります。
だから――ここは“トワイライト”。新しい未来の灯火になる街です」
◇
静寂の後、拍手が湧き起こった。
ランドルフが拳を叩きつけるように同意し、フェリナが微笑を浮かべて頷いた。
「いいわね。光に寄りすぎず、闇にも呑まれない。……バランスが取れている」
「トワイライト……!」
若者たちが口に出し、広場の外にまで響く。
こうして、共生街は名を得た。
まだ脆く、不安も大きい。
だが、“名を持つ”ことで、そこに息づく人々の心がひとつ結ばれたのだった。
◇
会議場を出た後。
リュシアが隣で囁く。
「あなたが言葉を紡ぐ時、私は誇らしくなる。――でもね、それを一人で背負わないで。
私がいる。みんなもいる。今日みたいに」
カイルは照れたように目を逸らした。
「……ありがとう。君が隣にいるから、僕は言葉を言葉にできるんだ」
篝火の明かりが朝の陽光に消えていく。
トワイライト――その名が生まれた朝は、確かな希望を映していた。
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