狼の拳—仲間の盾
昼下がりの広場。
騒ぎが起きたのは、炊き出しの列に亜人と人間の若者が同時に割り込んだ時だった。
「俺たちだって腹減ってんだ!」
「順番守れないなら出ていけよ!」
肩がぶつかり、罵声が飛ぶ。
周囲が緊張に包まれたその瞬間――。
「やめろ!」
鋭い声とともに、一人の大柄な青年が二人の間に割って入った。
黒髪のショートに狼耳、鋭い琥珀の瞳。
筋肉質の腕で二人を軽々と押し分け、堂々と胸を張る。
「ここは共に生きる場所だろ。喧嘩するなら、まず俺を倒してからにしな!」
周囲がどよめく。
その迫力に、若者たちは舌打ちして退いた。
◇
「……お前、名前は?」
ジークが腕を組んで問いかける。
「ランドルフ。獣人族の戦士だ。難民を守るのが俺の役目だった」
狼耳がぴくりと動く。
まっすぐな眼差しに、ジークはふっと笑った。
「いいじゃねえか。その拳、腐らせるのはもったいねえ」
「お前は?」
「ジーク。人間だが……まあ、拳で通じる相手を探してたところだ」
言葉より早く、二人は拳を打ち合わせた。
重い音が響き、互いに笑みをこぼす。
◇
夕暮れの訓練場。
ランドルフとジークが並び立ち、若者たちを相手に組手を繰り返す。
人間も亜人も関係なく、倒されては起き上がり、汗を流す。
「これからは混成だ。人も獣も、街を守る盾になれ!」
ランドルフの声に、歓声が上がる。
焚き火の周りでは、アマネとリュシア、エリスティアが見守っていた。
「……あの二人、似てるね」
リュシアが笑みをこぼすと、アマネも頷く。
「直情型同士、通じ合ってるんだろ」
エリスティアは尾を揺らし、目を細める。
「人と亜人の壁を壊す……こういう出会いを、待っていたのかもしれない」
◇
その夜、混成自警団が正式に立ち上がった。
まだ粗削りだが、街の灯を守る新しい盾。
人々の心に、小さな安心と誇りが芽生えていく。
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