表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

281/471

民の声—王族の言葉

炊き出しの煙が薄く漂う夕刻。

共生街の広場に、鋭い声が響いた。

「待ってください! その分配はおかしいです!」

声の主は、橙の髪に狐耳を揺らす少女だった。

長い尾をふわりと揺らし、巫女衣をまとった姿は人々の注目を集める。

「子どもや老人を優先するのは当然です。でも――兵役を免れた貴族の倉庫にはまだ余裕があるはずです!」

その言葉に、周囲の難民たちがざわめいた。

アルトは机から立ち上がる。

「……君は?」

「フェリナ。民の声を代弁する者です」

そのまなざしは鋭く、王族の青年を正面から射抜いていた。

「我らが備蓄も限界だ。今は少しでも秩序を保たねば」

アルトの声は冷静だが、言葉には重みがある。

「秩序? それで飢える民の声を切り捨てるのですか!」

フェリナは一歩も退かない。

カイルが横から口を挟んだ。

「正義がぶつかっているだけだね。アルトは“秩序”を守ろうとしている。フェリナは“民の腹”を守ろうとしている。どちらも正しい」

「だが――」

「だからこそ、落としどころを見つけるのが僕たちの仕事だよ」

カイルは微笑み、紙にさらさらと線を引いた。

「三日ごとに交代で倉庫を開く。備蓄を均す。その上で、子どもと老人優先を徹底する。どう?」

アルトは目を細め、フェリナは短く息を呑んだ。

そして、やがて頷く。

「……なら、民も納得します」

やりとりを見守っていたアマネは、刀を背に軽く笑った。

「正義と正義のぶつかり合い、か……剣より難しいね」

リュシアは微笑んで応じる。

「でも、乗り越えれば強くなる。きっと」

フェリナはふと二人に目を向けた。

「あなたたちは……」

「勇者と聖女?」と囁く声が群衆から漏れる。

リュシアは首を振り、静かに答えた。

「私たちは、みんなと同じです。希望を、分け合う者にすぎません」

その言葉に広場の空気が和らいだ。

フェリナはじっと二人を見つめ、やがて尾をふわりと揺らして口元を緩めた。

「……なら、信じてもいいかもしれませんね」

夜が落ち、焚き火の明かりに照らされた街は少しだけ落ち着きを取り戻す。

しかし、人と亜人の摩擦はまだ始まったばかり。

だが確かに、小さな一歩が踏み出されていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ