王都の喧騒—再会の声
王都の門をくぐった瞬間、アマネとリュシアは息を呑んだ。
石畳の広場は臨時の炊き出し場に変わり、鍋の列が幾つも煙を上げている。
怒鳴り声と泣き声と笑い声が入り混じり、街全体が熱を帯びていた。
「……数日で、こんなに」
リュシアが杖を握り直す。
庵を出てからわずか三日。王都はもう、別の顔をしていた。
「アマネ! リュシア!」
鍋の向こうから駆けてきたのはジークだった。額には汗、腕には小麦粉がこびりついている。
「おかえり! いや、おかえりって言うより――すぐ手伝え!」
「いきなりすごい歓迎だね……」
アマネは苦笑しつつ刀を背に回し、腕まくりをする。
リュシアも頷き、スカートの裾を整えた。
◇
広場の一角、簡易机に山積みの報告書を前にアルトが座っていた。
「次、井戸の使用順で揉めた件……」
「……それは夜警を増やして交代制に」
隣でカイルが即答し、報告をさばいていく。
そこへアマネとリュシアが現れると、二人は一瞬だけ手を止めた。
「――戻ったか」
アルトの声には疲労がにじんでいたが、それでも笑みがこぼれる。
カイルも軽く手を振り、「君たちがいなくて、本当に大変だった」と冗談めかして言った。
「ただいま」
アマネが短く返す。その言葉に広場の空気がわずかに柔らぐ。
◇
そこへ、白銀の髪に角を持つ小柄な少女が駆け寄ってきた。
赤い瞳をきらきらと輝かせ、リュシアの杖を見て大きく目を丸くする。
「すっごーい! 光ってる! ねえ、どうやったらそんな杖持てるの!?」
ジークが慌てて少女の肩をつかむ。
「こら、セラフィオ! また勝手に……!」
少女はミナを見つけて、ぱっと駆け寄った。
「師匠っ! 今日も釘打ち教えてー!」
「し、師匠って呼ぶなー!」
ミナの慌てふためく声に、広場のあちこちから笑いが起こった。
アマネとリュシアは顔を見合わせ、自然と笑みを交わす。
緊張と不安に満ちた街の中で、その笑いはたしかな希望の灯のように広がっていった。
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