幕間:静かな叱責
(試練の洞窟中の庵)
庵の庭に、満月の光が降り注いでいた。
試練の洞窟へ向かう前夜。
縁側に腰掛けたルシアンのもとに、アルフォンス王が訪れた。
「……ルシアン」
王はゆっくりと歩み寄り、静かに頭を下げる。
「この目で見届けたくて来た。為政者としての初心を、取り戻さねばならぬと思ったのだ」
ルシアンは黙って茶を淹れ、差し出す。
「王都は混乱の渦中だ。ルナリア王国の動きも、宰相が背後にいたと断定できる状況にある」
王の表情が曇る。
「……あの男に、私は頼りすぎた。信を預け、結果として国難を招いた」
普段なら穏やかに受け流すはずのルシアンが、その言葉に初めて顔を上げた。
瞳が鋭く光り、低く押し殺した声が響く。
「頼ったのではない。委ねすぎたのだ、アルフォンス」
「……っ」
「王であるお前が目を逸らし、宰相に全てを任せた。その結果を今、国民が背負わされている」
王は息を詰まらせ、拳を強く握った。
ルシアンの声は決して荒げられたものではない。
だが、普段怒りを見せぬ彼だからこそ、その静かな叱責は重く響いた。
「……すまない」
やっとの思いで王が漏らした声は、夜風にかき消された。
庭に座すカグヤが尾を振り、沈黙の間を和らげた。
ルシアンは再び視線を落とし、茶に口をつける。
その背を見つめながら、アルフォンス王は胸の奥に教訓を刻む。
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