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継杖—賢者の矢

洞窟を覆う闇が再びうねり、幻影獣の咆哮が響いた。

黒い腕が地を叩き、床石が砕けて飛び散る。

「アマネ、下がって!」

リュシアが前へ出る。

その声音は震えを含まず、芯のある強さで洞窟に響いた。

杖の先端に浮かぶ星映水晶が、赤と青、そして紫に輝く。

炎、氷、雷――三つの属性が彼女の周囲を巡り、髪を揺らす。

「……私はもう、祈るだけの聖女じゃない」

低く呟き、リュシアは掌を前に伸ばした。

光矢が生まれる。

だが以前のような淡い矢ではなかった。

燃える炎をまとい、氷の煌めきを帯び、雷の稲光を宿した矢。

「星炎氷閃――!」

放たれた矢は幾筋もの軌跡を描き、幻影獣へと突き刺さった。

炎が肉を灼き、氷が動きを封じ、雷が影を切り裂く。

三重の力が重なり、闇の獣は苦悶の咆哮をあげた。

「すごい……!」

背後でアマネが息を呑む。

刀を構えながらも、彼女は今や守り手に回っていた。

幻影獣が大きく腕を振りかざす。

「アマネ!」

「任せて!」

アマネは刀を地に突き立て、星護結界を展開。

星粒が舞い、半透明の光壁が迫る爪撃を受け止める。

轟音が洞窟を揺らすが、結界は砕けなかった。

「行って、リュシア!」

「……ありがとう」

リュシアは杖を掲げ、さらに魔力を込めた。

足元に光の陣が浮かび上がり、彼女の髪が風に舞う。

「聖女だからじゃない……私自身の意志で!」

光矢が再び生まれる。

今度は数十本。

その全てが彼女の意志を宿し、幻影獣へ一斉に放たれた。

「――はあぁっ!」

矢が奔流となり、洞窟を埋め尽くす。

炎と氷と雷が交わり、闇の肉体を穿つ。

悲鳴が反響し、岩壁が震えた。

しかし――。

闇は消えず、逆に膨れ上がっていく。

影が暴れ狂い、リュシアの光矢を呑み込もうとした。

「まだ……!」

リュシアの膝が震え、杖が重くのしかかる。

魔力の奔流に呑まれかけ、視界が白く霞む。

「リュシア!」

アマネが駆け寄り、刀を掲げた。

「星護結界!」

光壁が彼女を包み、押し寄せる闇を防ぐ。

二人の視線が交わる。

「無理はするな」

「いいえ……私はもう、退かない。守るために、攻めるの」

闇と光がせめぎ合う中、リュシアは凛と立ち続けた。

その姿は、かつての無垢な祈り手ではない。

強く、気高く、仲間を導く賢者の光そのものだった。

アマネは微笑み、刀を握り直す。

「なら、次は――二人で」

幻影獣が吠え、洞窟の奥が崩れ始めた。

星と闇が渦を巻く中、二人は肩を並べる。

呼吸は重なり、双子のように揃っていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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