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星閃—流星の刃

洞窟の奥で、影がかたちを成した。

黒煙のように揺らめき、狼の顔と人の腕を持つ異形――幻影獣が吠える。

地を裂くような咆哮が響き、天井の岩から砂がざらざらと降り注いだ。

「くるよ、リュシア!」

「ええ……!」

二人は自然に背を合わせた。

同じ日に生まれた二つの鼓動が、ひとつの拍子で脈打つ。

アマネが踏み込む。

刀身は淡く星を散らし、軌跡が夜空を描く。

「――星閃一刀!」

振り下ろした瞬間、無数の光粒が放射線のように広がった。

天から流れ落ちる隕石の群れのように、光刃が一斉に降り注ぐ。

轟音。

衝撃波が走り、岩壁が砕け、幻影獣の影を切り裂く。

散った光は星砂となり、暗い洞窟を銀河に変えた。

「っ……!」

アマネは刀を握る腕に震えを感じる。

星の力が身体の奥まで流れ込み、全身が灼けるように熱い。

「リュシア、下がって!」

アマネの声に、リュシアは杖を掲げた。

杖の先端、水晶がふわりと浮かび、光が広がる。

「光律聖陣――」

白銀の魔方陣が床に描かれ、半透明の結界が二人を包み込む。

幻影獣が放った黒い爪撃が結界に叩きつけられ、火花のように散った。

「はぁっ……!」

リュシアは矢を形作る。

掌に生まれた光は矢の姿に変わり、一本、また一本と宙へ浮かぶ。

「光矢、放て!」

放たれた矢は次々と幻影獣を貫き、闇を穿つ。

だがすぐに裂け目から黒煙が溢れ、再び獣の姿を形作る。

「効いてない……!」

アマネが歯を食いしばり、もう一度刀を振る。

今度は一点に力を凝縮し、星の軌跡を束ねる。

「――星閃一刀・一点突破!」

刀から放たれた光刃は流星のように一直線に走り、幻影獣の胸を裂いた。

暗い影が悲鳴のように震える。

だが同時に、星の力が逆流し、アマネの腕に重くのしかかる。

「く……っ!」

力の奔流が制御を超え、膝が崩れかけた。

「アマネ!」

リュシアが駆け寄り、杖を突き出す。

「守るわ――光律聖陣!」

再び結界が展開し、アマネを包み込む。

リュシアの額に汗が滲む。

幻影獣は傷を癒しながら、さらに膨れ上がっていった。

闇が濃くなり、洞窟全体を覆い尽くす。

「まだ……足りないの……?」

リュシアは息を荒げ、結界を保ちながら呟く。

アマネは地に片膝をつき、刀を握りしめた。

「攻めすぎた……? ごめん……!」

「謝らないで。あなたが切り開いてくれたから、ここまで守れたの」

二人の視線が重なる。

呼吸が乱れても、同じリズムを求めるように揃っていく。

幻影獣が牙を剥き、結界を粉砕しようと突進してきた。

リュシアは震える指を杖に添えた。

「今度は……私が攻める番ね」

アマネははっと顔を上げ、頷いた。

「うん、交代しよう」

二人は背を離し、今度はリュシアが一歩前へ出た。

杖先に宿る水晶が鮮やかな色に揺らめく。

「光矢だけじゃない……炎も、氷も……!」

杖に集う魔力が、赤と青に輝き始める。

次の瞬間、炎と氷の相反する光が矢の形を取り、リュシアの周囲に浮かんだ。

「――星炎氷閃!」

放たれた矢が幻影獣へ殺到し、灼熱と極寒で同時に挟み込む。

洞窟が轟き、闇の影が揺らいだ。

結界の内側で、アマネは刀を握りしめた。

「……リュシア」

その背中は、もう守られるだけの聖女ではなかった。

光と炎と氷を束ね、仲間を守るために攻め立てる――賢者の姿だった。

アマネは深く息を吸い、笑みを浮かべる。

「次は……一緒にだね」

幻影獣の咆哮が再び洞窟を震わせる。

だが二人の呼吸は乱れず、双子のように揃っていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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