交錯する思惑—新都トワイライト構想
王都の大広間に、貴族たちのざわめきが渦を巻いていた。
難民受け入れから数日。広場は飽和し、街角には亜人たちが寝床を探して溢れ出す。
王は重々しく玉座に腰を下ろし、声を響かせた。
「――本日の議題は、亜人難民を一時収容するための新たな街づくりについてである」
その瞬間、場が割れた。
「馬鹿な! 領土を割いてまで、余所者のために新たな町を?」
「治安はどうするのだ! 彼らが暴れれば、我らの民が被害を受ける!」
反対の声が飛び交う中、アルトは毅然と立ち上がる。
「放置すれば路上で餓死する者が出る。それは人道に背くだけでなく、隣国との禍根を残す。――だが町を築けば、彼らは働き、税を生む。いずれ我が国の利益ともなるはずです」
理路整然とした声に、一部の貴族が唸る。
「……働かせる、か」
「なるほど、開墾や鉱山の労働に回せるなら、領地にとっても得かもしれん」
宰相ヴァレンティスがすかさず立ち上がり、声を張る。
「愚かな! 労働力などと美辞麗句を並べても、結局は異端を国内に招き入れるのだ! 秩序を乱す火種を抱えるだけではないか!」
声は鋭く、会場の空気を一瞬で凍りつかせた。
だがアルトは怯まず、王に視線を向ける。
「父上。……民が困窮し、土地が荒れたままでは国は痩せ細ります。彼らを取り込み、新しい町を――“トワイライト”を築くことこそ、未来への投資です」
沈黙。
やがて王がゆっくりと頷いた。
「……可決とする」
どよめきが広がる。
反対派はなお不満げに呻いたが、多くの貴族は「労働力」「利益」という言葉に押され、最終的に頷いた。
◆
会議が散じたあと、宰相は人目を避けて廊下を進んでいた。
白い指先は深く握り込まれ、爪が掌に食い込む。
(馬鹿どもが……労働力だと? このままでは依代が足りぬ。餌をソレイユに奪われれば、計画が崩れる……!)
燃えるような焦燥がその眼に宿る。
そして彼は心中で一つの名を呼ぶ。
(……教皇よ。もはや時を急がねばならぬ。火事場に残る連中を、徹底的に“捧げ物”に変えるのだ)
その歩みは、すでに王国の未来を見据えてはいなかった。
ただ、暗黒の道へと進む決意だけが重く響いていた。
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