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限界を映す影

夜を徹して炊き出しと寝床の整備を行った翌朝、王都の大広場には疲弊した空気が漂っていた。

篝火の灰が風に舞い、泣き疲れた子どもが母の腕で眠り、男たちは所在なげに空を仰いでいる。

「……やっぱり、無理があるな」

ジークが低く漏らした声に、隣のミナが頷いた。

鍋は空になり、配給袋も底を尽きかけている。

「昨日の時点で在庫は半分切ってる。これ以上は、王都の備蓄に頼るしかないよ」

彼女の指先は震えていたが、その眼差しは鋭かった。

リュシアは難民の間を巡り、負傷者や体調を崩した者に癒しの光を施していた。

「本当なら、一人一人にもっと寄り添いたい……でも、数が多すぎる」

肩にかかる重圧を隠すように微笑みながら、彼女は次の患者へ歩んでいった。

一方、ギルド本部では――。

「今日だけで新規登録が三十件……っ、処理が追いつきません!」

若い受付員が悲鳴を上げる。

ロイクやレナも応援に駆けつけ、羊皮紙を抱えて右往左往していた。

「こっちの依頼は終わったから、登録の確認手伝う!」

「子どもたちは私が見ておくから!」

アマネはその様子を見守りながら、小さく呟いた。

「……力だけじゃ駄目だ。ここから先は、“仕組み”が要る」

リュシアが隣で頷いた。

「ええ。昨日までは思い出の庵の広場で焚き火を囲んでいるようだった。でも今は、国家の問題に繋がっている」

その声音には、聖女らしい凛とした響きがあった。

夜。広場に寝転がる難民の間を歩きながら、エリスティアは胸の奥に苦いものを抱えていた。

(私がもっと強ければ、ここまで彼らを追い詰めずに済んだかもしれない……)

だが、その背に子どもが縋りつき、か細い声で「ありがとう」と呟いた。

その瞬間、エリスティアの瞳に決意の光が宿る。

「……ここで止まらない。フローラ様の思いを繋ぐために」

仮設の篝火が夜風に揺れ、燃えさしが星空へ舞い上がる。

しかし、その火の灯りが示すのは、もう庵の小さな日常ではなかった。

――国家を越えて、未来を形作る戦いの始まりだった。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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