限界を映す影
夜を徹して炊き出しと寝床の整備を行った翌朝、王都の大広場には疲弊した空気が漂っていた。
篝火の灰が風に舞い、泣き疲れた子どもが母の腕で眠り、男たちは所在なげに空を仰いでいる。
「……やっぱり、無理があるな」
ジークが低く漏らした声に、隣のミナが頷いた。
鍋は空になり、配給袋も底を尽きかけている。
「昨日の時点で在庫は半分切ってる。これ以上は、王都の備蓄に頼るしかないよ」
彼女の指先は震えていたが、その眼差しは鋭かった。
リュシアは難民の間を巡り、負傷者や体調を崩した者に癒しの光を施していた。
「本当なら、一人一人にもっと寄り添いたい……でも、数が多すぎる」
肩にかかる重圧を隠すように微笑みながら、彼女は次の患者へ歩んでいった。
◆
一方、ギルド本部では――。
「今日だけで新規登録が三十件……っ、処理が追いつきません!」
若い受付員が悲鳴を上げる。
ロイクやレナも応援に駆けつけ、羊皮紙を抱えて右往左往していた。
「こっちの依頼は終わったから、登録の確認手伝う!」
「子どもたちは私が見ておくから!」
アマネはその様子を見守りながら、小さく呟いた。
「……力だけじゃ駄目だ。ここから先は、“仕組み”が要る」
リュシアが隣で頷いた。
「ええ。昨日までは思い出の庵の広場で焚き火を囲んでいるようだった。でも今は、国家の問題に繋がっている」
その声音には、聖女らしい凛とした響きがあった。
夜。広場に寝転がる難民の間を歩きながら、エリスティアは胸の奥に苦いものを抱えていた。
(私がもっと強ければ、ここまで彼らを追い詰めずに済んだかもしれない……)
だが、その背に子どもが縋りつき、か細い声で「ありがとう」と呟いた。
その瞬間、エリスティアの瞳に決意の光が宿る。
「……ここで止まらない。フローラ様の思いを繋ぐために」
仮設の篝火が夜風に揺れ、燃えさしが星空へ舞い上がる。
しかし、その火の灯りが示すのは、もう庵の小さな日常ではなかった。
――国家を越えて、未来を形作る戦いの始まりだった。
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