王城への報告
ギルド本部からの緊急報告を受け、アマネたちは王城へと招集された。
謁見の間には既に重々しい空気が漂っている。玉座に座すのはソレイユ王国の主、国王アルフォンス。その隣には王妃エリシア、そして王太子レオンが控え、列席する宰相ヴァレンティスが冷徹な視線を送っていた。
アマネは一歩前に出て、深く頭を垂れた。
「ご報告いたします。ルナリア北部の森にて、異常発生した魔物の群れを討伐しました。しかしこれは一度限りの事件ではなく、各地で同様の兆候が広がっていると、エリスティア殿の報告と一致しております」
場に低いざわめきが走る。
レオンが父に目を向け、静かに補足した。
「父上。ギルドによる迅速な対応がなければ、あの森は壊滅していたでしょう。国の枠組みを越えた問題として捉えるべきかと」
ヴァレンティス宰相が口を挟む。
「しかし、証拠は断片的に過ぎます。確かに勇者殿たちの働きは称賛に値しますが、王国として公式に動くには――早計かと存じます」
鋭い言葉に、アマネはわずかに眉を寄せたが、声を荒げはしなかった。
「宰相のお言葉、理解しております。けれど……私が見たのは、ただの群れではありません。人が変貌し、依代となった魔物――あの脅威を見過ごすことはできないのです」
言葉の重みが謁見の間に沈む。
アルフォンスは玉座で静かに目を閉じ、息を整えてから開いた。
「勇者アマネよ。もしその判断が誤りであった場合、王国は甚大な責を負うことになる。そなたは――その覚悟を持っているか?」
重圧の問い。しかし、アマネの瞳は揺らがなかった。
「はい。これは私ひとりの戦いではありません。仲間と、民と、そして王国の未来のために。必ずや責任を果たします」
短い沈黙ののち、アルフォンスは深く頷いた。
「……よかろう。その覚悟を、王として受け取った。ギルドを通じた活動を今後も許可する。ただし、必ず王家と連携を取るのだ」
エリシアが優しくも鋭い声で添える。
「証拠は確かに薄いわ。それでも、見てきた者の言葉を無視すれば、未来は閉ざされる。――宰相、慎重さは必要ですが、歩みを止めてはなりません」
ヴァレンティス宰相は無言で頭を下げたが、その瞳の奥にはなお読めぬ影が揺れていた。
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