報告と覚悟
ギルド本部の執務室に戻ったアマネたちは、待ち構えていた留守番組と合流した。
机の上には地図や依頼書が散乱し、窓の外にはまだ冬の冷たい風が残っている。室内の空気は、それ以上に張り詰めていた。
「お帰り。無事でなによりだ」
ガロウが太い腕を組み、わずかに安堵した声を漏らした。その眼差しは鋭いままだが、弟子を待つ師のような温かさも含まれている。
「ご苦労様」
イレーネはいつもの穏やかな笑みを浮かべつつも、どこか不安を隠せない顔で彼らを迎えた。
その横で、カイルが静かに視線を向けていた。真剣な目で仲間の帰還を確認し、言葉を待っている。
アマネは一歩前に出ると、深く息を吸い込んだ。
「……調査の結果、北部の森で異常な魔物の湧出が確認されました。単発の事故ではなく、各地で同時に発生している。もしこれが連鎖すれば、ただの群れ暴走では収まらないはずです」
「スタンピードの前触れ、ということか?」
ガロウが眉をひそめる。
リュシアが小さくうなずいた。
「はい。兆候は十分に揃っています」
ジークが拳を握りしめ、机に軽く置いた。
「巨蜘蛛の群れを討伐しましたが、あれは氷山の一角です。数も異様に多く、自然発生とは考えにくい」
エリスティアも口を開く。
「……調査の途中で感じました。魔物の出現は“自然”ではなく、何らかの力に引き寄せられているような……。断言はできませんが、ただの生態系の乱れでは片付けられません」
部屋に重苦しい沈黙が落ちる。
アマネは視線を巡らせ、仲間一人ひとりの顔を見た。そして言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。
「脅威を前にして、私たちは縮こまるべきじゃない。怯えるだけじゃ、民を守れない。……でも、恐れを知らないわけじゃない」
その声は、決して大きくはなかった。
けれど真っすぐに響き、そこにいる者たちの胸を揺さぶった。鋭さと、温かさと――聞く者を立ち上がらせる力が同居していた。
「……」
イレーネが静かに息を呑み、カイルが瞼を伏せてから口を開く。
「まずは教会で調整しよう。ただ、この件は国政にも関わる。王家へも速やかに報告すべきだろう。誤解を招かないよう、正しい順序を踏んで伝えることが大事だ」
「なるほどな」
ガロウが低く唸る。
「だが、ただの杞憂だった場合、責任を問われるのはギルドになるやもしれんぞ」
ジークが肩を強張らせた。責任の重さがのしかかる。だがその隣で、ミナが横から肘で小突いた。
「大丈夫。責任を負うのは私たち“だけ”じゃない。ギルドはすでに国に認められた。だからこそ、王家も教会も一緒に動くべきなんだよ」
その言葉に、ジークの肩がわずかに緩む。
アマネは彼らのやりとりを見守りながら、小さく頷いた。
「……覚悟を決める時だね。どんな結果であっても、逃げない。みんなで背負う」
その一言で、場の空気が確かに結ばれた。
リュシアが最後に、静かに締めくくる。
「では、王家への報告を進めましょう。教会とも連携しながら――一刻も早く」
こうしてギルド本部での報告は終わり、彼らは次なる段階へ進む覚悟を固めていった。
背筋に冷たいものが走るのは、これから始まる嵐を、誰もが予感していたからだ。
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