巨蜘蛛との死闘
巨蜘蛛が黒煙を吐き出した瞬間、視界が闇に覆われた。
熱気と腐臭が混じり合い、肺を焼くように喉を締めつける。
「下がって!」リュシアの結界が光を放ち、闇を切り裂いた。
透明な膜が全員を包み、黒煙を押し返す。
「今だ――!」
アマネが一歩、踏み込む。剣先に光が宿り、軌跡は炎のように紅く輝いた。
巨蜘蛛は脚を振り下ろす。大地が震え、土と雪が舞い上がる。
その一撃をロイクが必死に受け止め、歯を食いしばって踏ん張った。
「うぅぅおおおおおっ!!」
盾が軋む音と共に、アマネの剣が閃き――脚の一本を斬り落とした。
甲高い悲鳴。巨体がのたうち、木々が倒れる。
「ジーク!」
「任せろ!」
ジークがその隙を逃さずに突進。鋼の大盾で蜘蛛の体を押し込み、体勢を崩す。
「エリスティア!」
「了解!」
彼女の矢が光を帯びて放たれ、巨蜘蛛の眼を射抜いた。片方の眼が潰れ、黒い体液が飛び散る。
だが、巨蜘蛛は怯むどころか狂乱の動きを見せる。無数の糸を吐き出し、周囲を網で覆い尽くした。
枝から枝へ、幾重にも重なる粘着糸。逃げ道を塞ぎ、獲物を絡め取ろうと迫る。
「ミナ!」
「わかってる!」
ミナが魔導銃を構え、特殊弾を撃ち込む。
炸裂と共に高熱が広がり、糸が一斉に焼き切れた。
「隙ができた!」
「アマネ!」
仲間たちの声が重なる。
アマネは剣を両手で握り、全身の力を刃に込めた。
――剣光一閃。
巨蜘蛛の腹を縦に裂き、閃光が夜の森を貫いた。
爆ぜるような衝撃と共に、巨蜘蛛が断末魔を上げて崩れ落ちる。
静寂。
ただ風に揺れる糸の残骸が、雪に張り付くように残された。
ロイクは尻もちをつき、肩で息をしていた。
「お、終わった……のか……?」
「……うん、終わったよ」アマネが刀を収める。
だがその表情は、勝利の安堵ではなく、険しい影を帯びていた。
エリスティアが歩み寄り、膝をついて黒い体液をすくい取る。
「……これは自然な魔物のものじゃない。混ざっている。人の……いや、“依代”の痕跡だ」
声は低く、確信に満ちていた。
「エリスティア、それは……」リュシアが問う。
「報告は受けていたの。各地で大型魔物の異変が起きているって。けれど、まさかここまで……」
彼女は振り返り、仲間たちに視線を向けた。
「もし、この異変がこの森だけじゃなく、他の村や街でも同時に起きているとしたら――」
沈黙が場を支配した。
森の奥に広がる闇が、まるで笑っているかのように重くのしかかる。
「……これは非常事態だ」アマネが小さく呟く。
その声に、全員が無言で頷いた。
巨蜘蛛は倒した。だが、それはただの始まりにすぎない。
彼らの背後には、まだ見ぬ数多の異変が、迫りつつあった。
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