北部の森、初任務の夜
北部の森。昼間でも薄暗い木々の間を、アマネたちは進んでいた。
先頭はジーク。ミナが地図と方位器を確認しながら、後方をアマネとリュシア、そして緊張気味のロイクが守る。エリスティアは耳を澄ませ、森の気配を探っていた。
「……やっぱり、この辺り。魔物の気配が濃いわ」
「ギルドへの報告でも、この森で不審な人影を見たってあったな」ジークが答える。
ロイクは剣の柄を握りしめ、目を逸らさないように必死だった。
「ぼ、僕だって……足手まといにはならないから……!」
「力むなって」アマネが軽く肩を叩く。「任務はチームでやるもの。私たちがいるんだから」
◆
夕刻。森の奥での調査を終え、一行は野営を決めた。
ミナがバッグから折り畳み式の器具を取り出す。
「見ててね! 簡易シャワー装置、改良版!」
魔石をはめると、霧状の温水が噴き出す。リュシアがその周囲に結界を張り、冷気を遮断する。
「これで夜でも冷えずに使えるわ」リュシアが淡々と告げる。
「おぉ〜!」アマネが感嘆の声をあげ、エリスティアは珍しそうに水に手をかざした。
ただ一人、ロイクは耳まで真っ赤にして固まっている。
「あ、あの……そ、それって……女の人も使うんですか……?」
「当たり前じゃない」アマネがさらり。
「だ、だって! 声とか、水音とか……聞こえちゃ……」
「何を想像してるの?」エリスティアが涼しい顔で微笑み、ロイクの視線を受け流す。
「あなたは入場禁止。絶対に近づかないこと!」ミナがきっぱりと言い渡す。
リュシアはくすりと笑い、「見張り番をしていればいい。これは任務中の休養だ」と軽く片付けた。
◆
夜。焚き火を囲んで、ジークとロイクが見張り番に立つ。
森の闇の奥からはときおりフクロウの声。
背後の結界の向こうから、女子たちの談笑がかすかに漏れてきて、ロイクは火の粉を見つめながら落ち着かない。
「……なぁ、ジークさん」
「ん?」
「女の人って……すごいよな……」
「今さら気づいたのか」
ジークの短い返しに、ロイクはさらに赤くなり、焚き火の火に顔を近づけて誤魔化した。
焚き火の灯りに揺れるその横顔に、アマネはふっと笑みをこぼす。
「可愛いなぁ、ロイク」
――小さな可愛さと、大人びた成長の狭間で揺れる少年。
その姿は、彼女たちの旅路に少しの温もりを添えていた。
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