帰還と宰相の影—責任の所在
ソレイユ王城に戻った使節団は、謁見の間の奥、執務会議室へと案内された。そこにはアルフォンス王とエリシア妃、そしてレオンが既に待っていた。背筋を正したアルトが、使節団を代表して口を開く。
「陛下、ルナリア王国との交渉、無事に果たして参りました。国王セドリック陛下は頑なでありましたが、王妃フローラ殿の進言により、ギルドを通じた越境活動を認めていただきました」
王の隣で穏やかに頷くエリシア。その視線の先に、勇者と聖女が並ぶ。アマネとリュシアは真剣な面持ちで言葉を継いだ。
「ギルドは、勇者や聖女だけに頼らない“人の力”を育てる場です。私たちもその一員として、後ろ盾となる覚悟です」
「ええ。国境を越えても、互いを支える礎にきっとなります」
場の空気がやや和らいだ、その時だった。重々しい声が静けさを切り裂く。
「……理想論としては結構だ。しかし、問題が起きた時、誰が責任を取るのだ?」
宰相マクシミリアン・フォン・ヴァレンティスが口を開いた。深い皺の刻まれた顔に、冷ややかな光が宿る。
アルトは真正面からその問いを受け止め、短く息を吸った。
「私が取ります。外交を担う者として、そしてソレイユ王国の王子として」
きっぱりとした声に、一瞬の静寂。
王族の視線が交錯する。アルフォンス王は何も言わず、ただその覚悟を見極めるように目を細めた。
宰相は唇の端を歪める。
「覚悟、か。……ならば見せてもらおう。その若さで、どこまで背負えるのかを」
表向きは言葉を引っ込めたが、会議室を後にする宰相の背はどこか不穏な影を引きずっていた。
──夜。
城の一室で、宰相は数名の側近と密かに集っていた。
蝋燭の炎に浮かぶその顔は、先ほどの会議で見せた理性的な政治家の顔ではない。
「ギルドなど、芽吹かせてはならん。勇者や聖女に頼らずとも動く仕組み……そんなものが根を張れば、我らの統制は揺らぐ」
「では、どうなさいますか?」
「ルナリアを揺さぶる。あの地は既に教皇猊下の手も及んでいる。依代の実験を加速させ、混乱を拡大せよ。難民が押し寄せれば、ギルドとやらが崩れる様を拝ませてもらおう」
宰相の皺だらけの指が、机をゆっくりと叩く。
その音は、これから訪れる嵐の前触れのように、不気味に響いた。
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